WATCHMAN
WATCHMANは、従来から脳卒中リスクの低減に有効とされる「抗凝固薬(血液をサラサラにするお薬)を生涯服用する脳卒中予防治療」に対して、1回限りの手技で患者さんの将来的な脳卒中リスクを低減できる利点があります。
また、99%以上が一年以内に抗凝固薬の服用を中止することができる※3、長期ワルファリン療法の代替療法です。
心房細動と心原性脳梗塞
「心房細動」は心房という心臓の上の部屋が小刻みに震えることで起こる不整脈のひとつです。規則正しい拍動ができないことで、血液を全身に送り出すポンプ機能が20~30%低下し、心臓内で血液が滞留してしまい、血の固まり(血栓)ができやすくなります。
この血栓が心臓から流れ出て血流にのり、脳の血管を詰まらせると発症するのが「心原性脳梗塞」です。
従来より有効な予防策として抗凝固薬(血液をサラサラにするお薬)を生涯服用するという方法がありますが、出血性のイベントリスクが高まるという副作用があり、もともと消化管出血や脳出血などのリスクの高い患者さんは、脳梗塞だけでなく、出血の危険性を考慮せねばならず、治療が難しいことがありました。また、定期通院の負担もかかります。
このような抗凝固薬を長期間服用することができない心房細動患者さんは、日本に約6万人※1と推定されており、「3人に1人が脳卒中を発症する※4」と言われています。
WATCHMAN―左心耳閉鎖システム
心房細動が原因の血栓は、約9割が左心房にある「左心耳」でできると言われています※5。そこで半永久的に左心耳を閉鎖し、脳卒中を予防するために植え込むのがWATCHMANです。
以前は開胸手術で左心耳を切除したり、クリップで閉鎖する手術が行われてきましたが、高齢の患者さんには大きな負担となっていました。WATCHMANは開胸することなく、カテーテル治療で行うため、低侵襲治療というメリットもあります。
また、WATCHMANは、長期のワルファリン服用ができない非弁膜症性心房細動患者さんに対して、ワルファリンと同等の有効性があるという調査結果もでています。※6
治療適応
非弁膜症性心房細動患者さんで、出血性リスクがある為、脳卒中予防のための抗凝固薬の長期服用が困難な方。
より詳しい適応・除外基準はこちら
適応基準
- HAS-BLED スコアが 3 以上の患者
- 転倒にともなう外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある患者
- びまん性脳アミロイド血管症の既往のある患者
- 抗血小板薬の 2 剤以上の併用が長期(1年以上)にわたって必要な患者
- 出血学術研究協議会(BARC)のタイプ 3 に該当する大出血の既往を有する患者
なお、機械的人工弁の植込み患者、凝固能亢進状態の患者、または再発性 DVT 患者など、非弁膜症性心房細動以外の理由で経口抗凝固薬の長期使用が必要な患者は、本治療の適応ではないことに留意すること。
除外基準
- 心臓内(特に心房内)血栓が認められる患者。
- 心房中隔欠損又は卵円孔開存に対する修復治療(外科手術、デバイス留置等)、あるいは心房中隔の縫合閉鎖の既往がある患者。
- 左心耳の解剖学的構造が閉鎖デバイスに適応しない患者。
- 左心耳閉鎖術が禁忌である患者(経食道心エコー( transesophageal echocardiography:TEE)プローブや施術に必要なカテーテルの挿入が困難等)。
- 抗凝固療法、アスピリン又はチエノピリジン系薬剤の使用が禁忌である患者。
※一般社団法人日本循環器学会「左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針」より
実際の手技紹介
心臓超音波装置を食道に挿入し、心臓超音波画像によるモニタリングでカテーテルの操作を行うため、全身麻酔下で行います。足の付け根の静脈から右心房までガイドワイヤーを挿入します。そして右心房から左心房に穿刺を行い、カテーテルを左心耳の中に挿入します。
そのカテーテルの中から、WATCHMANデバイスを挿入し、左心耳の中に留置します。
留置ができたら、超音波の画像で位置と固定具合を確認し、デバイスをリリース。全体の手技は平均して1時間以内程度で終了します。
※左心耳とは、親指程度の大きさで、胎児の際に左心房として機能しますが、成長とともに不要な箇所になる為、閉鎖しても問題ありません。
治療経過、注意点
外来で経食道心エコー、必要に応じて心臓CTなどを行い、治療適応かどうかを診断します。
後日、治療の数日前に入院していただきます。手術後は集中病棟の後に、状態が落ち着けば一般病棟へ移ります。同時に、元々の状態に応じてリハビリも開始します。
通常は術後2~4日で退院します。手術後約1か月で、埋め込んだデバイス表面が内皮化するため、術後45日および半年を目途に再度外来で経食道心エコーを行い、順調に閉鎖しているかを確認します。
なお、45日間は処方された抗凝固薬を継続しますが、左心耳の閉鎖が確認できれば、抗凝固薬を中止します。
合併症やリスク
- 左心耳の形態や大きさによっては閉鎖ができない可能性があります。
- 心臓の周囲に血液がたまる心タンポナーデなど重篤な手技合併症の可能性は1.5%程度です。
- 留置後、左心耳の閉鎖が完全に達成されず、抗凝固療法の継続が必要になる可能性があります。
- 閉鎖デバイス留置後の抗凝固療法の中止に伴い、左心耳以外の左房内や留置したデバイスに血栓が発生する可能性があります。
- 術後の抗凝固療法による出血の可能性があります。
よくあるご質問
① どういったタイミングで治療を行えばよいですか
② 全身麻酔も含めた手術時間は
③ 手術後、生活に制限はありますか
④ なぜWATCHMAN?
近森病院ハートセンター
循環器内科、心臓血管外科を中心に、放射線科や麻酔科、その他多職種が協働してリスクの高い心臓病治療にあたっています。全国屈指のチーム医療を誇る当センターでは、診療科間の垣根がなく、取り組みモデルとして全国からの見学者も多く、互いに意見交換を行うことで日々進化しています。
担当医師紹介
菅根裕紀 循環器内科 科長
中岡洋子 循環器内科 部長
川井和哉 循環器内科(院長 兼 ハートセンター長)
連絡先
近森病院循環器内科 菅根、中岡、川井
関係ページへ
Boston社 WATCHMANサイト(医療従事者向け外部サイトへ移動します)
出典
※1:H Inoue et al. International Journal of Cardiology, 2009; 137: 102-107.
※2:Holmes DR, et al. Seminars in Neurology, 2010; 30: 528-536.
※3:Holmes DR, et al. JACC, 2014; Vol. 64, No. 1.
※4:Brass L. Stroke. Yale University School of Medical Heart Book.
※5:Blackshear J. and Odell J., Annals of Thoracic Surgery. 1996; 61: 755-759.
※6:Reddy VY, et al. J. Am Coll Cardiol, 2017; In Press