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理事長のドキュメント

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2021年3月

新型コロナによる医療崩壊から見えて来た日本、特に高知の病院の機能分化

社会医療法人 近森会
理事長 近森 正幸

はじめに

欧米諸国に比べ日本の新型コロナによる感染者数および死者数は何十分の一にもかかわらず、世界的にも病床数の多い日本の病院、特に重症患者の受入れ病院の医療崩壊がマスコミで取り沙汰されていることに関して、一方的に民間病院の協力が不十分であることが言われているが、これを機会に現実を述べてみたい。さらには、新型コロナで生じた医療崩壊から見えてきた、日本の病院の機能分化を変化の激しい高知県の地域医療の現場から考察する。

先進国の中でも少ない?世界標準の日本の急性期病床

九州大学名誉教授の尾形裕也先生によれば、日本の病床数は人口1,000人当たり12.98床で、先進国の中でトップと言われている。2019年の病院病床数は153万床であるが、そのなかでコロナを受け入れることが出来ない精神病床と療養病床は、それぞれ32.7万床と30.8万床、合計63.5万床であり、コロナに対応可能な病床は、一般病床88.8万床に感染症病床1,900床を合わせても89万床弱にすぎない。さらには、一般に急性期病院と考えられているDPC対象病院は1,700病院、病床数で48万床強になり、その中で新型コロナの重症患者を受け入れることが出来る真の高度急性期及び急性期病床と言えるのは、せいぜい13万床+20万床、30万床程度で総病床数153万床の2割程度の水準となる。人口1,000人当たりの病床数12.98床は、実質2.60床となり、これは先進国の中でもベッド数の少ないカナダ2.55床、イギリス2.46床並のレベルに相当する。

結論から言えば、新型コロナの重症患者を受け入れることができる病床は世界的に見ても日本は極めて病床数が少なく、かつ24時間、365日高度急性期医療に対応できる基幹病院の医師、看護師はじめ医療専門職と9時、5時の昼間しか働かない医師、看護師とは明らかに違っており、その数も限られることから、今回の新型コロナで医療崩壊が起こるのも当然のことと考えられる。

逆に言えば、世界各国の人口1,000人当りの病院病床数にバラツキがあるのは、各国の病院病床の基準がマチマチであることから生じていると考えられ、今日のコロナ騒動で世界標準の真の急性期病床は人口1,000人当り2.5床前後ではないかと分ってきたように思う。

余裕のない民間病院と余裕のある公立病院

さらには、政府が長年にわたり進めてきた低医療費政策の結果として、特に高度急性期から急性期病院においては、稼働率を90%以上にしなければ利益が出ない程の低い診療単価になっている。そのため繰入金の無い民間病院では、救急や専門医療の重症患者に対応することで精一杯であり、とても新型コロナの患者を受け入れる余裕がない状態になっている。

その反面、繰入金のある公立病院においては、稼働率が低くても看護師に公務員ベースの多額の給与や民間に比べればはるかに優れた福利厚生を行っても経営できることから、空床を使った新型コロナ対応が可能で、看護師が感染防御対策で大変と言ってもやめる看護師がいないことに繋がっている。

機能分化のすすむ高知の地域医療

病床数の多い日本の中でも、人口当たりの病床の多い高知県においては、地域医療の変化が最も顕著に現れやすく、病院の機能分化や淘汰が確実に、すごいスピードで進んでいる。これは一見、地域医療構想の話し合いの結果と思われるかもしれないが、実態は診療報酬の誘導や医療制度改革によって機能分化が進んでおり、中でもナンチャッテ急性期病床と療養型病床の変化が著しい。

急性期の7:1看護においては、7:1の看護師を集めれば診療報酬が得られるストラクチャー評価から、重症度・医療、看護必要度が改定ごとに厳しくなり、重症の患者を数多く集め、早く治して自宅に帰すというアウトカムを出さないと7:1の診療報酬が得られないアウトカム評価に変わってしまった。そのため、急速に基幹病院に急性期の重症患者が集中し、しかも在院日数が短縮したことで処理患者数が増え、10:1以下の一般病床から急性期の患者が減少し、一般病床から地域包括ケアへ(高知では唯一、余裕のある地域包括ケアしか認められない)、地域によっては回復期リハや療養病床へ、急速に病床の転換が進んでいる。

療養型病床においては、介護療養病床は制度的に認められなくなり、猶予期限の2024年3月末にむけ介護医療院への転換がすすみ、医療療養病床においても重度の医療区分②、③が80%以上をクリアしないと、経営できなくなった為、従来の療養病床のイメージとはまったく異なってきた。重度の患者を少ないスタッフで診ることから稼働率を維持することが難しく、単なる療養病床だけでは経営できず、高知では地域包括ケア病床しか転換出来ず極めて厳しいが、病床に余裕のある地域では「急性期多機能病床」にグレードアップして、一般急性期~回復期リハ、地域包括ケア病床として頑張るか、「慢性期多機能病床」として回復期リハから地域包括ケア、療養病床から介護施設などの併設、在宅への展開を図り、地域医療連携を今まで以上に推進しないと慢性期病院としてやっていけない時代を迎えている。

高知県においては、2015年に100床以上の急性期病院は16病院あったが、2020年には11病院(実質的には10病院)にまで高々5年で減少している。そして廃院や介護医療院という施設への転換も急速に起こっている。

高知も欧米型地域医療へ転換

高知市および南国市は町の角々に病院があり、病院数および病床数では世界トップで、「病院、病床数の世界遺産」であった。現在の高知県は、幡多医療圏や高幡医療圏、安芸医療圏で見られるように基幹病院が1病院生き残り、幡多および安芸医療圏は県立病院しか存続できておらず、それ以外は地域包括ケアを担う回復期リハから療養病床、施設、在宅に変化しており、まさに欧米型の地域医療に中央医療圏以外はすでに移行している。人口がある程度多く、患者も中央に集中する中央医療圏においても、従来基幹病院と言われた病院の医療機能が専門医の減少により年々低下しており、このままでは基幹病院として生き残れる病院は高知医療センター、近森病院、高知大学医学部附属病院、高知赤十字病院、国立高知病院の5病院に限られ、その他の病院は地域包括ケアを担う病院、施設にこの5年から10年にかけて変化していくと考えられる。

基幹病院においても近森病院が452床の急性期病院から地域包括ケア病棟34床を開設し、7:1看護の一般急性期病床が418床になったように、人口の減少に伴い急性期の病床は減床及び休床し、実働している病床は減少しつつある。それでも、急性期基幹病院は診療報酬改定毎の厳しい条件を克服しつつ自己変革を続けており、世界標準の真の急性期病院に移行しつつある。重症度・医療、看護必要度の要件が厳しい7:1看護から10:1看護になることは、長い目でみれば基幹病院から地域病院への道であるように思う。

おわりに

高知県は全国一、病院数、病床数が多いことから地域医療構想で病床転換が厳しく制限され選択肢が限られることから、世界一の高齢社会への対応のために国が営々とすすめてきた診療報酬による誘導や医療制度改革により、全国に先駆けて地域医療の機能分化、急性期基幹病院への重症患者集中と地域包括ケアを担う病院や施設に急速に変化しており、国が求めているあるべき地域医療の姿に収斂しつつある。

このような医療状況の中で、地域連携推進法人「高知メディカルアライアンス」が2020年12月に認定されたことは、地域医療連携の推進と診療機能の集約化をすすめ、将来の高知の地域医療を守るために大きく貢献すると考えている。さらには今年4月からの近森病院における病棟再編成は、新しい時代の急性期病院のトライアルとしておもしろい試みであると思っている。本館では「生命を守る医療」、北館は「在宅復帰を推進する医療」と病棟機能を分けることで、医師、看護師はじめ多職種の業務の飛躍的な効率化により、救急患者の受け入れや長期入院患者の退院が促進され、在院日数が短縮するとともに新規入院患者の増加が図られると思慮している。