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理事長のドキュメント

理事長のドキュメント

『実践リハビリテーション栄養』
病院・施設・在宅でのチーム医療のあり方 掲載
P.14-18 医歯薬出版株式会社
2014年9月20日発行

急性期病院におけるアウトカムの出るリハビリテーション栄養

社会医療法人近森会 近森病院
院長・NST Chariman 近森 正幸

はじめに

親しい医師が頭頚部癌と診断され、都内の癌専門病院に入院した。放射線療法と化学療法を受けたが、たまたま腎機能が悪く胃瘻からの投与を医師の処方によりすべて腎不全用の濃厚流動食で行われたため、一日蛋白投与量は6グラムと必要とされる10分の1の量であった。しかもリハビリがまったく行われていなかったため、当院に帰ってきた時には骨格筋が消耗しやっと立てるほど衰弱しきった状態であった。すぐに適正な濃厚流動食に切り替え、リハビリを集中的に行うことで、なんとか元気になったが、当院のようにリハビリと栄養サポートが充実した病院でなければ転院先の病院や施設で寝たきり状態となり、家族との幸せな時間を過ごすことができなかったのではないかと考えられ、慄然たる思いであった。最初に入院した癌専門病院には栄養サポートチーム(以下、NST)の有名な先生がおられ、屋上庭園にはすばらしい遊歩道が整備されているにもかかわらず、どうしてこのようなことが起こったのか。これはリハビリや栄養サポートが必要とされる患者すべてに必要なときに適切なリハ栄養が提供されていなかったために、このような不幸な事態になったと考えられる。

新しいタイプのリハ栄養

急性期病院には人の命を支えるための膨大な業務がある。業務量はスタッフ数×能力×時間であり、能力は誤差範囲で時間は労働基準法で限定されることから、業務量が膨大になれば必然的にスタッフ数を増やさざるを得なくなる。さらには在院日数も10日から2週間と短くなり、週に1回のカンファレンスですり合わせするという情報共有の仕方では変化の激しい急性期の重症患者には対応できない。少数のリハスタッフや限られたNSTでは、高齢社会を迎え入院患者の半数に必要とされるリハビリや栄養サポートに対応することは不可能になっている。そのため多くのリハスタッフと管理栄養士を病棟に常駐させ、業務を標準化しルーチン業務を徹底的に身につけることで、多くの業務を迅速、確実に行い、専門性を高め医師に依存しなくても二言、三言の情報交換のみで情報を共有する、そんな新しいタイプのリハ栄養を実践することが21世紀の急性期病院では求められている。

高齢社会の到来とリハ栄養

高齢患者の特徴は認知症と廃用、低栄養で、業務量が極めて多く手間のかかる患者といえる。廃用、低栄養は、骨格筋が乏しいために寝たきりになりやすく、栄養状態が悪いことを示している。さらに、高齢患者は3次救急のほとんどを占めており、重症化しやすく高度医療にさらされることも多く侵襲が強くなり、急速に骨格筋が減少し廃用が進むとともに栄養状態が悪化する。これを防ぐには医師中心の質の高いチーム医療で根本治療を迅速、確実に行い侵襲を早く減らし、早期のリハビリと栄養サポート、早期の臓器代償療法など、多職種による効率的なチーム医療を行い骨格筋を維持し廃用を防ぎ、栄養状態を改善して退院させなければならない。このように侵襲が非常に強く廃用と低栄養が急速に悪化する急性期医療においては、リハビリや栄養サポートを積極的に行うとともに、入院直後から必要な患者すべてに必要なすべてのサービスを質の高いチーム医療と効率的なチーム医療を組み合わせ適切に提供しなければアウトカムは出ないといえる。

チーム医療の基本的な考え方

日本の医療現場においては、カンファレンスですり合わせして情報を共有する医師を中心としたチーム医療のみがチーム医療として認識されていたが、高齢患者が増え業務量が膨大となり、より効率的なチーム医療と情報共有の仕方が求められている。ここでは必要とする患者すべてにリハビリと栄養サポートを提供するためのチーム医療について考えてみる。

  1. ピラミッド型チーム医療とフラットなチーム医療(図1
    従来の医師、看護師中心の少数精鋭の医療から自然発生的に移行した「医師中心のピラミッド型チーム医療」は医師を頂点としたチーム医療で、医師が医学的に患者を診て診断し、各部署から病棟へ出てきた多職種に指示を出し、各職種は医師の指示に基づき業務を行うというチーム医療である。
    一方「多職種による多数精鋭のフラットなチーム医療」の「多数」は、多くの医療専門職が病棟に配属され常駐することを示している。「精鋭」は各職種がそれぞれの視点で患者を診て判断し、患者に介入する、自立、自動することを意味している。
    一人前の医療専門職になるためには、OJT(on the job training)を通じてまず業務の標準化によるルーチン業務を、先輩が屋根瓦方式で後輩に教え体得することから始まる。次に病棟に出てそれぞれの視点で患者を診て判断し、介入を繰り返すことが必要となる。リハスタッフはリハ学的、管理栄養士は栄養学的に患者を診て判断し、介入を繰り返すことで、教科書的な「形式知」ではなく、自分で患者を診て体験して得られる「暗黙知」を体得し、専門性を高めることができる。
    専門性の高いリハスタッフや管理栄養士は権限を委譲され、これまで医師、看護師が行なっていたリハビリや栄養管理業務を代替することで、誇りをもっていきいきと働けるようになる。一方、ルーチン業務を体得しただけの専門性の低いリハスタッフや管理栄養士は権限委譲されず、ほとんどの医師が専門外であるリハビリや栄養の医学的な判断に基づく指示に従って業務をしているだけであり、医療の質、労働生産性ともに低くなる。
    そうした状態では、それぞれの医療専門職のリハビリや栄養サポートの視点が欠けることから、医師、看護師が見落としがちな最初の事例のような医療トラブルが発生する可能性が極端に高くなる。
  2. 情報共有のあり方で分けられるチーム医療(図2
    重なりの大きいタイプの「もたれあい型チーム医療」は多職種がカンファレンスで医師にもたれて(依存して)すり合わせして情報を共有するため、チーム医療の質は高いが時間的空間的にコストがかかり処理能力には限りがある。そのためリスクの高い数少ない患者に対する医師中心の治療に対応するチーム医療に適している。
    重なりの小さい「レゴ型チーム医療」は組み合わせおもちゃのレゴブロックからきており、電子カルテに載せるか二言、三言の情報交換で情報共有し、業務の標準化で質を保ち多くの患者を処理できる。リスクの低い数多くの患者に対する効率的なチーム医療に適しており、患者の状態を良くするリハビリやNSTなどのチーム医療が主体となる。
  3. 急性期におけるリハ栄養の形
    急性期病院ではリハビリや栄養サポートの膨大な業務をチーム医療をうまくデザインして質高く、効率的に処理しなければならない。
    リスクが高く数少ない患者には、病棟カンファレンスやリハカンファレンス、NSTカンファレンスですり合わせして情報を共有する「もたれあい型チーム医療」で対応すればよい。 リスクが低く大多数の患者には「レゴ型チーム医療」でリハスタッフや管理栄養士を病棟常駐させ、主治医や担当の看護師、薬剤師などと情報交換で短時間に情報共有し、業務を標準化してルーチン業務を習熟することで、必要な患者すべてに効率的に対応すればいい。
    業務の標準化の質が高いか、リハスタッフや管理栄養士の専門性が高ければ、質が高く効率的な「高度なレゴ型チーム医療」になる。このことで、多くの患者を処理できるリハ栄養の質が向上し、労働生産性も高まりアウトカムも出る。リハスタッフや管理栄養士がやりがいをもっていきいきと働けるようにもなる。
  4. チーム医療のデザインの大切さ
    現在のNST加算の算定要件は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士がカンファレンスですり合わせをして情報共有する「もたれあい型チーム医療」で医師中心の栄養の治療目的の栄養治療チーム(Nutrition Treatment Team:以下、NTT)といえる。処理能力に乏しいためリスクの高い少数の明らかに栄養の悪い患者にNTTとして対応するだけであればいいが、膨大なありふれた低栄養の患者が対象であるNSTとしてはチームの医師、看護師、薬剤師がそれぞれのコア業務を犠牲にして頑張っても必要な患者すべてに栄養サポートができず、病院全体のアウトカムも出すことができない。コアの業務が栄養である多くの管理栄養士を病棟に常駐させ、効率的な「レゴ型チーム医療」で必要な患者すべてに栄養サポートを行うことでアウトカムの出るNSTとなる。

情報共有の仕方

急性期医療のチーム医療において、情報共有の難しさは患者が日々変化し患者の状態を数値化しにくいという点にある。強い侵襲が加わり患者は入院してくるが、根本治療で侵襲が即座に止まる場合もあれば、重症膵炎のようにいつまでも大きな侵襲が続く場合もある。そのためリハビリや栄養サポートを行っても効果はさまざまで、絶対的評価は難しいといえる。
患者が「動き始めた」、「食べ始めた」などはお互いの目で見れば分かるが、「動くとき勢いがある」とか「なんか歩いていても元気がない」、「食べ方が遅い」とか「かつかつとおいしそうに食べる」、「筋肉がつきはじめた」、このように日々刻々変化する感覚的な患者の状態は数値化しにくく、共通言語として使いにくいといえる。そのためリハスタッフや管理栄養士が病棟に常駐し、リアルタイムに患者をそれぞれの視点で診て判断し、介入することで患者を通じて理解しあうことが必要となる。
現実には患者を中心とした天秤のように考えると対応しやすい。日々患者を診る中でリハスタッフが運動負荷をかけられるようになれば管理栄養士は栄養負荷をかけバランスを取ればいいし、栄養が投与しづらい場合は運動負荷を少なくせざるを得ない。このように急性期医療においては患者を中心とした密なコミュニケーションで、相対的に評価して対応すればいい。このような情報共有は週1回のカンファレンスでは変化が大きく対応しきれず、リハスタッフと管理栄養士が病棟に常駐し、専門性を高め、患者を前にして短時間の情報交換で情報共有せざるを得ない。
一方回復期リハやより落ち着いた施設では変化の大きな侵襲がなくなり障害が残るのみなので、在院日数も長いことから、障害は機能評価やカロリーなどで数値化でき共通言語として使えるので、カンファレンスで情報共有することが可能になる。

当院のリハ栄養

当院のチーム医療の特徴は、専門性の高い医療専門職が各病棟に常駐し、電子カルテに載せるか、あるいは病棟に来た医師と二言、三言情報交換するだけで情報を共有し、それぞれの視点で患者を診て判断し、介入をしている点である。 近森病院は現在一般病床(7:1看護)が351床で精神科急性期病床60床を加え411床であるが、2015年1月には近森病院の全面的な増改築5カ年計画が完了し512床となる。
リハビリは1992年12月PT室開設にはじまり年々充実し、現在ではPT77名、OT22名、ST10名、合計109名の体制でお正月を含め、365日質、量ともにウィークデイの昼間と同じリハサービスを提供し、重症病棟では13時から21時の勤務体制も加えより濃厚なリハサービスを行っている。
臨床栄養部は2003年7月から管理栄養士4名体制でNSTがスタートし、現在では24名の管理栄養士がすべての病棟に常駐し、土日祝日の重症病棟ラウンドや夜間呼び出しにも対応している。
ICU18床では多くの医師、看護師とともに管理栄養士2名、薬剤師1名、MSW1名が常駐し、リハスタッフは必要に応じ10~20名が介入、MEの急性期チームは10名が担当、透析は透析チームが担当している。その他病棟クラークや医事課クラーク、アテンダントが協力して業務を行っている。
このような高規格の病棟でもPTの専門性が高く、心臓手術当日、術後2時間で適応患者の80%の患者を立たせており、術後1日目には馬蹄型のウォーカーでスタッフステーション一周50mを10周、午前、午後2クール、1日1,000m歩いている。当然管理栄養士の専門性も高く、術後1日目、食事は100%食べており、ICUの高度な栄養管理に対応している。早期の離床、歩行、経口投与で心臓手術術後5-6日目でほとんどの患者が元気に笑顔で退院されている。

おわりに

現在、急性期病院においてはリハ栄養の実践はまだまだ行われていない病院が多く、行われていても必要な患者すべてに必要なときに適切なリハ栄養が患者に提供されているとは言えない状況が続いている。アウトカムの出るリハ栄養のためには多くのリハスタッフと管理栄養士を病棟に常駐させ業務を標準化し、ルーチン業務に習熟することで多くの業務を迅速・確実に行うことができる。さらには、それぞれの視点で患者を診て判断し、介入する、自立、自動することで専門性を高め、医師、看護師のリハビリと栄養サポートの業務を代替し必要な患者すべてに適切なリハ栄養を提供し、やりがいをもっていきいきと働くことができる。
すべてのスタッフが患者に早くよくなってもらおうと心を一つにして働く、平等で独立している「多職種によるフラットな組織」が、21世紀の急性期病院には求められている。医師のみが医学的に診断し、指示を出し、医師以外のスタッフは「医師の指示は神の声」と何も考えずに業務を行うという昔ながらの「医師中心のピラミッド型組織」では、リハ栄養の世界でもすでにやっていけない時代を迎えているといえる。

 急性期病院でのリハ栄養の実践はまだまだ行われていない病院が多く、行われていても必要な患者すべてに必要なときに適切なリハ栄養が患者に提供されているとは言えない状況です。また、情報共有の仕方にしても特に栄養サポートはカンファレンスですり合わせして情報共有しており、入院患者の半数という膨大な業務には対応しきれていません。そういうことで近森病院の概要や実践例というよりも、急性期医療におけるリハ栄養の実践例とそのベースにある考え方をもとにしたオーバービュー的な内容になっておりますので、ご了承ください。