理事長のひとりごと
[2016年12月27日] 「鮨かねさか」Ⅱ
東京に出張があると、ときどき寄る「鮨かねさか」に行くと、大将がいなかった。マカオのホテルの支店で700人の大パーティをすることになって手伝いに行っているという。
その日はいつも座る大将側の席ではなく、手前の三平ちゃんの前に座った。「三平ちゃん」は源氏名で、新人のころ、しょっちゅう怒られてはいつも「すいません!」といっていた、それが林家三平に似ていたことから、「三平ちゃん」と呼ばれるようになったという。三平ちゃんに鮨を握ってもらうと、大将の寿司とは違って明らかに小さい。しっかりと握っていて、形も体格に似合わずスマートだった。そこで不思議に思い大将の人となりや鮨に対する思いを尋ねてみた。
若い人が入ってくると、まず掃除、次いで魚のウロコ落しからはじまって魚の下処理を徹底してやらせる。それと平行してシャリを握らせ、だまになったり、柔らかすぎたり、ウロコ1枚入っていても寿司が台無しになってしまうことを実感させる。何よりも水と塩の大切さ、水は季節によって温度が違うし、軟水、硬水の違いでシャリの炊き加減、だしのとり方が違う。魚の身には絶対に水をかけない。塩は魚の水分をとったり、味付けの塩梅として、産地や量を考えている。魚を切る時もやわらかい身は厚く、硬い身は薄く、それに応じて面積を調節して、重さを一定にするなど、基本を叩き込んでいる。
「かねさか」の面白いところは、基本的なことはしっかり教えるが、握り方はどうこういわない点である。「なによりも前に人間として成長することが大事」だと、大将が話していたことがある。いわば「かねさか」は金太郎アメのような鮨職人を養成しているのではなく、営業のスターをつくっているのだといえる。一個の鮨には握る本人のすべてが表現されているので、三角に握ろうが、丸く握ろうが、本人がおいしいと思えば自由である。「かねさか」の鮨職人はそれぞれ個性を持っていて、自分の持てるものを伸ばして、それぞれにお客さんがついている。
だから店を任せてもやっていけるだけの力量を備えることができるので、多くの職人を国内外に輩出している。
だから、いつも予約でいっぱいでも「かねさか」は違っている。お客が大将に集中するのではなく、それぞれの鮨職人にお客がついていて新陳代謝するので、予約することができる。いくつかの有名な鮨屋は予約の電話そのものがかからない場合が多い。大将ひとりにお客さんが集中しているからだ。
病院の医師も鮨職人と同じで、研修医のころは診断や治療のガイドラインなどの基本的なことをしっかり身につける必要がある。実際に責任を持って患者さんを診るようになると、それぞれが自分の信ずる「患者さんにとっていい医療」を実践して、患者さんから信頼され、患者さんがついてくれる医師に育ってもらいたいと願っている。
2016年12月27日
2017年4月12日変更
近森 正幸