相談役 近森正幸のドキュメント document

相談役 近森正幸のドキュメント

相談役 近森正幸のドキュメント

ひろっぱ Vol.405 2020年4月号

新人を迎えて
近森病院はなぜ高知で唯一民間で急性期基幹病院になれたのでしょうか

社会医療法人 近森会
理事長 近森 正幸

はじめに

1984年今から36年前、私が理事長、院長に就任した当時の近森病院は死亡率13%の野戦病院のような救急病院で、付添い看護で寝たきり患者が2/3を占め、1/3の病床で救急医療を行い高知の地域医療の底辺を支えていました。

現在の近森病院はヘリポートを有する救命救急センターで、地域の医療を支える地域医療支援病院、災害時には真っ先にDMATを派遣する災害拠点病院、精神科の総合心療センターも統合し512床の急性期基幹病院になっています。

補助金のない民間病院がこのように大きく変化したのは、マネジメントをくり返し、努力し続けた結果といえます。

マネジメントの本質はFocus(集中)

集中は何をするかではなく何をしないかであり、選択と集中が求められます。集中すれば足りない機能が出てくるので連携が必要になり、「機能の絞り込み」と「連携」がマネジメントのキーワードになります。

機能の絞り込みで例えば外科医は外科医にしかできない手術に絞り込めば医療の質が上がり評判が良くなって患者数が増えます。また労働生産性も上がり単価が上がることで売り上げが上がって設備投資や多くのスタッフを雇う原資が出ます。医療は人がするものですので、機能を絞り込むことで人件費率を上げることなく、スタッフが質、量ともに向上し、病院らしい病院として発展し続けることができます。

機能の絞り込みと連携

病院の機能を絞り込めば地域医療連携、病棟の機能を絞り込めば病棟連携、スタッフの機能を絞り込めばチーム医療が必要になります。

地域医療連携では落ち着いた外来の患者はかかりつけの先生方に逆紹介して、当院の外来は救急対応、紹介、専門外来に絞り込み、入院診療、特に手術に絞り込んでいます。そのため外来センターは完全紹介予約外来制で、再診はもちろん、初診の患者もかかりつけの先生方が紹介状を持たし予約して受診されます。予約する余裕のない急変した患者は本館A棟1階にあるERのウォークイン外来で対応しています。

重症で手間のかかる高齢患者は高度の医療と多くのスタッフが必要になるので、重症病棟で多くの看護師と多職種とともに医師が根本治療を行い、落ち着けば一般病棟へ移すという病棟連携を行っています。病状に応じたスムーズな転棟はベットコントロールナースが担当しています。

チーム医療はマネジメントが最も難しい連携であり、公的病院ではあまり導入されていませんが、近森病院では20年前からリハスタッフが病棟に出るようになり、それに続いて薬剤師や管理栄養士、臨床工学技士、メディカルソーシャルワーカー、歯科衛生士などが病棟に常駐し、チーム医療を展開しています。近森病院の病棟常駐型チーム医療の特徴は、多職種が週1回各部署から病棟へ出て来てカンファレンスで時間をかけて情報共有し、医師が指示を出し、多職種は業務を行うだけの医師中心のチーム医療ではなく、多くのスタッフが病棟に常駐し、多職種がそれぞれの視点で患者を診て、判断して直接患者に介入する自律、自働するチーム医療であり、多職種の専門性が高く、それぞれの職種が患者を診ていることから情報共有がリアルタイムに可能な、効率的で質の高いチーム医療を展開しています。

さいごに

このようなマネジメントは近森病院だけでなく近森会グループ全体で実践され、医療の質と労働生産性を高め、病院が発展する大きな要因になっています。4年前の2016年4月の診療報酬改定で、7:1の看護師がそろえば診療報酬が入ってくるストラクチャー評価から、重症の患者を数多く集め、早く治して自宅へ帰さないと診療報酬が入ってこないアウトカム評価に変わり、時代は右肩上がりから右肩下がりの時代に大きく変わっています。

今までの発想にとらわれない自己変革を続け、細かなマネジメントを積み重ね、アウトカムを出し続けることが求められる時代になりました。近森会グループは毎年毎年変わり続けています。それは患者の皆様に満足してもらい、スタッフ皆がいきいきとやりがいを持って働ける職場づくりでもあります。新人に期待することは、医師の指示で何も考えず業務をするのではなく、自分で考え判断し介入できるスタッフに育ってくれることです。頑張って下さい。