理事長のドキュメント
DPC採用病院の現在:近森病院
(「DPCマネジメント研究会」Web2011年9月掲載)
労働生産性を高め、マンパワーの充実と質を確保
-病院らしい病院としてあり続けるために-
社会医療法人近森会グループ 近森病院
近森会理事長、院長 近森正幸 先生
近森会グループ管理部 診療支援部長 寺田文彦 さん
〈ラインナップ〉
- 高齢社会における医療の両輪は、栄養サポートとリハビリテーション
- マンパワーの充実と機能の絞り込みがチーム医療を強くする
- "物品販売業"である出来高払いの限界
- これからは"労働集約型医療サービス"の時代
- データに裏付けられたDPCとチーム医療の相関関係
- これまでの常識から脱却し、発想の転換を
病院プロフィール
名称 社会医療法人近森会 近森病院
院長 近森 正幸
所在地 高知県高知市大川筋1丁目1-16
病床数 338 床
診療科目 内科/循環器科/神経内科/消化器内科/呼吸器内科/糖尿病/内分泌/代謝内科/外科/形成外科/消化器外科/呼吸器外科/小児外科/整形外科/脳神経外科/心臓血管外科/泌尿器科/放射線科/麻酔科/腎臓内科/人工透析内科/病理診断科/救急科(救命救急センター)/皮膚科/リハビリテーション科/心療内科
病院URL http://www.chikamori.com/
高齢社会における医療の両輪は、栄養サポートとリハビリテーション
貴院の概要について伺います。
近森:当院は高知駅前に位置し、高知中央医療圏における基幹病院として、地域医療支援病院・災害拠点病院・臨床研修指定病院の認定を受けています。2010年1月より、県知事から高知県内唯一の社会医療法人に指定され、2011年5月には救命救急センターとして認められています。救命救急病棟18床、ICU・CCU24床を併設する338床の急性期病院です。近隣する近森リハビリテーション病院・近森オルソリハビリテーション病院・総合心療センター近森と連携して地域医療を展開しています。近森病院は338床ですが、近森会全体としては722床になります。リハビリでは脳卒中や脊髄損傷などの患者さんは近森リハビリテーション病院、整形外科は近森オルソリハビリテーション病院、精神科は高知メンタルリハビリテーションセンターという具合に、リハビリに対しても機能分化しながら地域医療を展開しています。近森会として、地域の患者さんの急性期医療からリハビリまでを全面的にサポートし、早期に自宅に帰るという流れを支援しています。
地域医療連携以外にも、病棟連携とチーム医療のマネジメントで医療の質の向上と効率的な医療を展開しています。"病棟連携"とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、重症の患者さんはICUや救命救急病棟に、重介護の患者さんはHCUに入院し、病状が落ち着けば一般病棟に移っていただきます。
このような病棟連携を下支えするチーム医療は、病院経営における重要なマネジメントのひとつと考えています。マネジメントのレベルによって、その病院の医療の質と効率が大きく左右されます。
高知中央医療圏の特徴についてお聞かせください。
近森: 高知中央医療圏は、各病院の医療機能が絞り込まれているのが特徴です。それを示す根拠としては、DPCの医療機能係数Ⅱにおいて、上位に高知県の複数の基幹病院が入っていることです。医療圏によって機能が絞り込まれているという背景には、高知県は全国で3番目の高齢県であることに関連しています。高齢化と同時に、若い医師が減っているため、郡部における急性期病院の機能は非常に落ちており、中央医療圏の基幹病院である高知医療センター・高知赤十字病院・近森病院の3病院に全県的に急性期の患者が集中しているという現状があります。いずれの病院も地域医療支援病院と救命救急センターを併設しておりますし、その一方で、郡部の一般病院の急性期医療の機能が落ちつつあるという厳しい現実があります。
高齢化が著しいことによって、医療においてどのような影響がありますか?
近森: 高知県では他の地域より10年ほど早く高齢社会を経験していますので、高齢社会における医療の両輪とは、栄養サポートとリハビリテーションであるということを身にしみて感じています。高齢患者さんは、認知症、低栄養、廃用が特徴で、そのうち低栄養と廃用は、骨格筋が少なくなるために起こります。蛋白質からなる骨格筋は栄養の塊ですから、加齢に伴い骨格筋が衰えることで、低栄養状態になり、さらに、病気などの侵襲が加わることで、急速に栄養状態が悪化し、低栄養と廃用が進行します。
高齢患者さんに対する栄養サポートとリハビリテーションを実践するためには、チーム医療が非常に重要です。1989年に近森リハビリテーション病院を開設し、当時の院長の石川誠先生(現在、東京都・初台リハビリテーション病院理事長)と共に、医師・看護師中心の医療から、多職種が関わるチーム医療に取り組みました。現在の診療報酬の「回復期リハビリテーション病棟入院料」は、近森リハビリテーション病院の実践を元にして作られました。
マンパワーの充実と機能の絞り込みがチーム医療を強くする
貴院におけるチーム医療の特徴についてお聞かせください。
近森:当院では、薬剤師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床工学技士・医療ソーシャルワーカーを病棟配属し、チーム医療を実践しています。中でも、高齢者医療において栄養サポートチーム(以下、NST)が果たす役割は大きいことから、管理栄養士は1病棟に1名配属させています。管理栄養士を中心に、患者さんの栄養評価と栄養計画を作成し、栄養サポートを充実させた結果、点滴や抗生剤が減り、食事が増えています。また、ICUなどの重症患者さんでは栄養や水分の補給は経静脈栄養から経口や経腸栄養に切り替えています。腸を使うことで免疫が高まり、感染予防の面でも効果が期待されます。
このようなNSTのメリットについては、厚生労働省の会合で発表する機会があり、それが契機となって診療報酬の算定項目に新たに「NST加算」が生まれました。
日本の社会全体で高齢化が進むなかで、高齢患者さんへのサポートの重要性については大変参考になります。チーム医療を充実させるために工夫されていることについて教えてください。
近森: 当院では病床100床あたり272人のスタッフを要しています。人数は多いですが、全職員に対して医師と看護師が占める割合は62.1%と低いのが特徴で、高知中央医療圏のほかの基幹病院では、病床100床あたりの職員数は135人で、医師と看護師の占める割合は84.1%です。職員数が増えることで対応できる業務量は増えますし、多職種でチーム医療をすることで医療の質が向上し、労働生産性も上がります。
具体例を挙げますと、当院では臨床工学技士(以下、ME)を重症病棟に配属していますので、人工呼吸器・大動脈バルーンパンピング(IABP)・人工透析・人工心肺などの維持管理は、MEが中心に行なっています。通常は医師2人体制で行うことが多い心臓カテーテル検査についても、当院ではMEと医師1名が行いますし、人工呼吸のウィーニングやICUなどでの人工透析もMEが主体になって行なっており、医師は医師にしかできない本来の仕事に集中することができます。
スタッフの機能を絞り込みながらチーム医療を実践することで、良質で効率的な医療を提供できます。医療の質が向上すれば患者さんが集まり、病床稼働率は上がりますし、機能を絞り込むことで単価が上がり売り上げも増えることから、人を多く雇っても、人件費率は変わりません。このことに気づいたのは、出来高払いからDPCに移行してからです。
チーム医療を効果的に展開するための仕組みとして、多職種を病棟に配属しているということでしょうか。
近森: チーム医療には2つのタイプがあると思います。専門部隊型のチーム医療と病棟配属型のチーム医療です。専門部隊型のチーム医療は、医師が中心となり、カンファレンスなどで多職種が情報をすり合わせて質の高い医療を実践することができますが、処理能力が劣るという弱点があります。私は、病棟配属型のチーム医療体制を組むことで、その弱点を克服できると考えます。
医師に比べて労働生産性が低い看護師やコメディカルは、必要な患者さん全てに効率良く医療を展開できる病棟配属型のチーム医療をすることで良質で効率的なチーム医療を提供できます。医師と看護師、コメディカルでは、労働生産性のレベルが全く違うことを念頭にマネジメントすべきではないでしょうか。
"物品販売業"である出来高払いの限界
DPC導入前の病院経営上の問題点についてお聞かせください。
近森: 出来高払いの時代からチーム医療を頑張っていましたが、実はものすごく苦しかったんです。NSTを頑張れば、点滴や抗生剤の使用は減りますから売り上げも利益も減ってしまうため、その頑張りは報われません。出来高払いの欠点は、診療報酬に相対するモノのコストが固定されていることです。薬や検査、看護料など、あらゆるコストが固定されています。
診療報酬は20年以上に渡り年々削減されてきましたが、モノのコストが主に削減されてきました。モノのコストが下がると、差益が減って利益が減りますから、当然、人件費にあてる費用が減るので人を雇うことができないということになります。
高齢社会において、人手不足は致命的です。若い人に比べて、手間のかかる高齢患者さんには対応できませんし、周術期も同様に手間がかかりますので、リスクのある大手術ができなくなります。つまり、出来高払いは、一見するとやればやるほど売り上げや利益が増える仕組みに見えますが、スタッフを雇う原資に乏しいことに気がついたのです。
DPC導入によって、出来高払いとの違いは感じましたか?
近森: 2004年からDPC導入の検討を始め、2006年4月からDPCを導入しました。導入後、最初の結果が出た時に、今までの出来高の経営データの感覚とは明らかに乖離していました。なんとなく、DPCと出来高払いでは概念的に違う物ではないだろうかという疑問がわいたのです。DPC導入からしばらくして出た結論は、出来高払いは物品販売業であるということです。例えるなら、魚屋です。一方で、DPCは労働集約型の医療サービス業、魚屋から料亭割烹になったということです。
魚屋は、商品そのものの値段、つまり卸と小売りとの差益が利益です。利益以上に人を雇うことができませんから、少人数でたくさんのモノを売った方がいいわけです。ところが、料亭割烹では、料理人が刺身をきれいに切り盛りして、愛想の良い仲居さんが持っていけば、商品に付加価値をつけて売ることができます。
DPC導入後は、マネジメントや質の高い人材を育成することの重要性をより一層感じるようになりました。出来高払いからDPCへの移行は、単に支払い制度が変わっただけでなく、物品販売業から労働集約型サービスへ医療のあり方が大きく変わったといってもよいのではないでしょうか。DPCを導入したことで、その違いをはっきりと感じることができました。
これからは"労働集約型医療サービス"の時代
病院経営の観点からみて、DPCのメリットはどこにあるでしょうか。
近森: DPCでは1日の包括点数にモノのコストや人件費が固定されていないので、自由にマネジメントができるという大きな特徴があります。出来高の場合は売り上げとなる薬剤や検査は、DPCでは経費になってしまうので、ジェネリック医薬品などでできるだけ安価になるようにコストを下げます。画像や検査についても、人件費や機材リース料、保守費用を固定費として、変動費は単価の低い液体試薬や電気代くらいにしておくと、必要に応じていくらでも低コストで検査をすることができます。さらに、チーム医療で人手をかける医療を実践することによってモノのコストを下げることができます。
現在、当院における65歳以上の入院患者さんは76%を占めます。高齢患者さんは訴えもはっきりせず、所見もとりにくく、診断がつきにくい傾向にあります。そのため、必要な検査はできるだけ多く、迅速に行い、早期に診断をつけて根本治療を行ない、早期に住み慣れた場所に帰っていただく。これが高齢化社会を迎えたDPC時代における医療の流れだと思います。
若い患者さんであれば、余命やQOLが異なりますから、青天井の出来高払いの元で、できる限りの検査や治療を行ってもよいのかもしれません。しかし、高齢社会を迎えた今、従来の出来高払いの医療では、立ち行かなくなっています。そうした時代の流れの中でDPCが出てきたのだと思います。
医療の効率化をはかるために必要最低限の検査にとどめるといった考えとは全く対極の発想ですね。
近森: 検査や画像診断はできるだけ少なくするといった考え方では、診断もつかず、入院期間は長引き、病院の評判は落ち、患者数も減っていくと思います。DPCにおける医療の効率化とは、検査や薬を最少化することではありません。人を中心にしたマネジメントを考える時代になったのだと思います。スタッフを増やして、チーム医療で人手をかけた医療をすることで医療の効率化を進めていく。一方で、必要な検査は先生方がどんどんやっていく、それができる仕組み作りを考えなくてはいけません。
データに裏付けられたDPCとチーム医療の相関関係
DPC導入のために各部門や病院全体でどのような取り組みを行いましたか。
寺田: 各職種、各診療科において大きな変化はなかったですね。オーダリングは1999年8月から始まっていました。以前から国際分類に基づいたコーディング体系でやっていたこと、電子カルテ導入とDPC導入が同時期だったことで、混乱はありませんでした。内容的にみて、コード体系がおかしいものは、診療情報管理士や医事課がフィードバックしましたが、詳細なコード体系を覚えてもらうことはありませんでした。近森: 当院では、25年前から診療情報管理士を育成しています。2004年には約20名、現在は35名ですが退職した方を含めると50名近くを育成しています。医事課は診療報酬を点数化する部門ですから、DPCのためというよりも、医事のプロを育成することが目的でした。
準備病院の調査書については、電子カルテ導入前だったので全部手書きで対応しました。医師・看護師・医事課というふうに職種別に色分けをして、記入しやすいようにし、各職種の研修を徹底し、2年間データを集めました。コーディングについては、1978年頃から国際分類に基づいたコーディングを導入していましたので、スタッフにアレルギーはなく、協力的で問題ありませんでした。仕組み作りにおいては管理部のサポートが非常に良く、院内の研修についても細かく実施することができました。
DPCから得られたデータについて、どのように分析しておられますか。
寺田: 科別疾病別患者数・手術件数・救急搬入件数など、50超余の帳票で集計しています。毎月、各診療科部科長が集まる運営会議上で、病院の収支データを公表しています。疾病別に入院日数やレセプト点数などを一覧にして、同一疾病と比較してデータの値に顕著に差がある場合には、診療情報管理室で理由を付けて情報を共有しています。近森: 病院としてデータを提示するだけで、データに基づいて医療を変えることもありませんが、先生方が工夫してやってくださっています。DPCと出来高払いとの点数差によって、診療内容が変わること自体おかしなことですから、医療の常識の範囲内で対応してくださいと言っています。
データ分析からどのようなことが見えてきましたか。
寺田: 平均在院日数については導入前後において1日程度は減りましたが、顕著な変化はありません。理由は、高齢患者さんが多いことから、同一疾病でも入院期間は長期化する傾向にあること、複数の病気を抱えている患者さんが多く併存治療が必要であることです。入院患者さんの6〜7割は、緊急入院なので、調整がしにくいということも関係していると思います。退院患者数と手術患者数は、売り上げに比例しています。手術やリハビリは出来高で、退院患者数は620人から670人に増えています。
疾病別では、心臓カテーテル検査は年間1,600件ほど実施し、出来高との比較では赤字傾向ですが、入院期間が短い為多くの患者さんを治療できます。軽症の肺炎や腸炎、CPAの短期死亡患者も多くの検査が必要な為、赤字傾向です。
同じ疾患でも重症の患者さんでは評価が高く、敗血症や多臓器不全などは処置が長期化した場合は顕著な差が出ます。最初に根本治療をしっかり行いながら経過観察することの必要性がデータからも伺えます。①クリニカルパスに乗って治療を行なう場合、②当初よりバリアンスがあり、③同一疾病でも年齢や重症度を加味する場合、副傷病の併存治療が必要な場合など、現場ではあくまでハンドメイド治療を行なっていることを認識しデータを取り扱う必要があります。
DPCでは、疾患別にこだわらず病院全体の収支確認が必要となります。
近森: DPCでは、重症病棟にどれだけ患者さんが入っているか、どれだけ大きな手術をしたかで、利益は変動します。つまり、DPCでは、人手をかけた医療をすればするほど売り上げは上がり、利益がでる構造になっていますし、そのでた利益で更に人を雇うことができます。
20年来、病院経営に取り組んできて、DPCの導入で一気にこれまでのマネジメントが花開いたような気がします。モノのコストはかけずに、チーム医療で人手をかけた医療をすることで、医療の質は向上します。このことからも、DPCはチーム医療に向いていると思います。
寺田: 救急でも紹介で入院されるケースなのかどうか、手術の種類や難易度によって収益は大きく変わります。DPC導入から6年目を迎え、救急車搬入件数・手術件数・病床稼働率・ERの慌ただしさを見ていれば、その月の売り上げはだいたいわかるようになりました。
これまでの常識から脱却し、発想の転換を
今後のDPC制度や医療全体についてお伺いします。よりよい医療を提供するうえで重要なものは何でしょうか。
近森: 医療の根源に関わりますが、各職種の機能を絞り込み、専門性を高めることが重要ではないでしょうか。医師であれば医師の仕事をするのではなく、医師しかできないことをする。さらに絞り込めば、整形外科医は整形外科医しかできないことをする。他の職種についても同じです。各職種の機能を絞り込むことは、それぞれの専門性を高め、質を上げ、労働生産性を上げるということではないでしょうか。寺田: よりよい医療とは、成果を上げるということ。成果を上げるためには、医療の質が高くないといけない。質を上げるためには、優れた人を集める必要がありますから、人材への継続した投資は欠かせないと思います。投資をするには、利益が出ないとできません。利益を出して、人材に投資して、医療の質を上げて、成果を上げる。この循環をずっと続けられる病院が生き残るのではないでしょうか。
その地域に必要とされるベッド数、診療内容は異なりますし、必ずしも大きな病院である必要はないと思います。同じ機能を持った同一規模の病院とベンチマークすることがDPCでは可能です。
近森: 医療は人がするもので、医療は人なのです。スタッフの労働生産性を上げれば、質も向上し、売り上げも上がり、利益もでます。とてもシンプルなことです。
医療機能を絞り込むことで、どうしても足りないところが出てきます。そこは地域医療連携や病棟連携、チーム医療が支える。チーム医療は、質の向上をもたらし、効率的な医療の展開につながります。DPC制度は、現在の医療の根幹に合った制度だと思います。
今後DPC導入を検討されている病院や、現在の準備病院へのメッセージをお願いします。
近森: DPCを検討する際、多くの院長先生や事務長さんが、一日包括払いですので厚生労働省の言いなりになって最後には押さえ付けられるのではないかと危惧されていますが、これはナンセンスだと思います。なぜなら、DPCをやっているのは、日本の医療の中核を担う急性期病院です。急性期医療は国民の安全、安心にとって最も大切なものですから、何としてでも守らなくてはなりません。急性期医療がつぶれたら日本の医療は終わってしまいます。だからこそ、締め付けを恐れるのではなく、急性期医療の最前線にいれば自分たちは絶対に倒れることはないとポジティブに捉えてみてはいかがでしょうか。
同じように、人を雇うと人件費が高くなって赤字で病院が潰れるという心配があるかもしれません。これは、戦後、国民皆保険が導入されて、長い間、出来高払いでやってきた出来高払いの単なる刷り込みにすぎません。DPC導入に伴い、これまでの常識を疑ってみる必要があるし、思い切った発想の転換が求められています。
都会と地方では、まるで外国かと思うほど医療環境は違います。有名大学病院は若い医師がたくさん集まりますし、個室料収入だけでも馬鹿になりません。一方地方では、土地代や建築費、人件費は安く、診療報酬も全国一律で、地方の中小の病院であっても、マネジメントで良質で効率的な医療を追求することで日本の急性期医療の先頭をきることができます。
寺田: DPC導入をして初めてわかったこと、見えてきたことがたくさんあります。今後の診療報酬改定の中で、自院が高度急性期・一般急性期・回復期など、どのステージで仕事をするのか、一般病床の出来高払い制度はいつまで残るのかなど、病院の方向性を示す選択の時期がきていると思います。DPCがそれぞれの病院の立ち位置について考える機会になればと思います。
近森: 病院らしい病院になるためには、出来高からDPCに、物品販売業から労働集約型医療サービス業に、家族経営から組織経営に、患者さんを入院させているだけの病院から患者さんを治す病院にならなくてはなりません。 医療のあるべき姿に導いてくれるのがDPC制度だと言えるのではないでしょうか。
--貴重なお話をありがとうございました。