相談役 近森正幸のドキュメント document

相談役 近森正幸のドキュメント

理事長のドキュメント

様々な診療支援業務の現状と今後の展望
-病院管理者の立場から-

社会医療法人近森会 近森病院
理事長・院長 近森 正幸

はじめに

 21世紀を迎え、医療の高度化と高齢社会の到来で業務量も膨大になると共に、診療報酬も出来高払いからDPCによる一日包括払いに変わり、病院の業態も物品販売業から労働集約型医療サービス業に大きく変化している。従来の検査や薬剤といったモノを売るのではなく、形のない付加価値を産み出して提供するようになり、これを報酬に変えるには種々のマネジメントが必要になってきた。その大きなツールは、地域医療連携であり病棟連携、チーム医療であるが、チーム医療の一部分である診療支援業務についての現状と今後の展望について病院管理者の立場で述べてみたい。
 診療支援業務として、今回は広義のチーム医療から国家資格を有する医療専門職が行う診療に密着したチーム医療を除いた、おもに管理部門のプロパーのスタッフによる診療支援について検討した。

近森会グループにおける管理部門の位置づけ

 近森会グループは高知の駅前に隣接して急性期医療からリハビリテーション、在宅まで地域医療を展開しているが、救命救急医療の急性期病床452床に精神科急性期病床60床の総合心療センターを統合した近森病院512床、脳卒中、脊損対象で全館回復期リハビリの近森リハビリテーション病院180床、整形外科のリハビリを担当する近森オルソリハビリテーション病院100床、合計792床と社会福祉法人ファミーユ高知の障害者の社会復帰、就労支援を行う高知ハビリテーリングセンター及びしごと・生活サポートセンターウェーブからなっており、近森病院管理棟の管理部が一括して各院、各施設の診療支援を行っている。
 そのため各院、各施設には事務長をはじめ数名の事務職員を配置するだけで、順調な病院施設の運営が可能になっている。ちなみに看護部は統括看護部長のもと看護師の採用や研修、労務管理を行っており、薬剤部、臨床検査部、画像診断部、臨床栄養部、臨床工学部、医療福祉部は、それぞれ近森病院の部長のもと、理学療法科や作業療法科、言語療法科は近森リハビリテーション病院のリハ部長のもと統括され、各院にスタッフを派遣する形をとっている。このように各病院、施設の専門性を尊重しながら分離と統合をうまくバランスよく組み合わせているのが近森会グループといえる。

診療支援業務を分類してみると

 病院トップの立場からみればチーム医療であり「もたれあい型(すり合わせ型)」や「レゴ型(組み合わせ型)」といった分類ができるが、診療支援業務を行っている現場により近い管理部の中間管理職やスタッフが、一緒に働くときにどういう働き方をしたら働きやすいかという観点から分類すると、「人事レバレッジ」1)と「タスクシフト」の2種類に分かれる。
 「人事レバレッジ」のレバレッジは梃子であり、梃子をきかせて働かすように診療を行っている医師、看護師が判断し、その指示のもと一緒に業務を行う方法である。スタッフの専門性が低いため、医療の質も労働生産性もあまり向上することはなく、医師、看護師の雑用を取り、負担軽減が大きな役割となる。そのため医師事務作業補助体制加算や急性期看護補助体制加算、診療録管理体制加算といった診療報酬がついたスタッフや総務や経理、施設用度、医事といった病院のコア機能を担うスタッフがプロパーのスタッフとなっている。
 「タスクシフト」は業務の代替を意味しており、スタッフそれぞれが自分の頭で判断し、介入する自律、自働が特徴です。国家資格の医療専門職によるチーム医療が典型で、医療の質を高めスタッフの数だけ労働生産性を高めることができる。
 国家資格を有しないスタッフでも専門性を高め、自律、自働することで、マネジメントが可能になる。ただし、それぞれのスタッフの人件費を稼げない場合は、経費のかかるコストセンターになるため、コストを下げるために清掃や滅菌、施設管理などは外部委託となる。スタッフがそれぞれの人件費を稼いではじめて専門性が高いといえるし、独立性が保たれることになる。この場合、利益の出るプロフィットセンターとなり、プロパーのスタッフになる。
 仕事の働き方を分類することによって、たとえばCT-スキャンなどの高額機器の購入担当スタッフが、医師の選定に基づいてA社のみ価格交渉を行うのではなく、競合するA社、B社を競わせ、最終的に医師の選んだA社に更なる値下げをせまることで、何億~何千万円の利益を病院にもたらす。これは人事レバレッジから専門性を高めタスクシフトに移行し、プロフィットセンターになることを示している。このようにチーム医療だけでなく、診療支援においても診療報酬の加算がついたからといってスタッフを雇うのではなく、診療報酬の有無にかかわらず必要であればスタッフを雇い、専門性を高め、自律、自働するスタッフに育て上げることが重要で、そうしてこそマネジメントが出来るようになり、サービス業の付加価値をうみ出すことが可能となる。

病院全体に対する診療支援

 前述したように近森病院の管理棟にある管理部は、それぞれの病院、施設の管理部門を統括しており、先進病院とのベンチマーキングや現場で日々切磋琢磨することで業務の標準化を進めている。さらに種々のプロジェクトをこなすことで経験を深め、質量ともに充実してきたことで、単に業務を行うだけのロジスティックス、兵站機能だけでなく、働きやすい環境を作るマネジメント機能に移行している。そのため、サービス業の発想の病院においては、診療支援業務の最も大事な部分は管理部門が担っており、診療支援として加算のついた医療秘書や看護補助者しか考えられない病院とは大きな差が出ている。当院の管理部門は総務部と診療支援部、危機管理部に分かれており、診療支援は主に診療支援部が担っている。

1)診療支援部

 診療支援部は、企画課、ICT推進課、電子カルテ管理課、診療情報課、医事課、施設用度課に分かれており、なかでも企画課は、近森会グループの全面的な建て直しを行った7カ年計画プロジェクトや病院附属看護学校の設立、他の多くのプロジェクトの中心的な役割を担っており、専門性の高い診療支援業務の中核部隊といえる。
  1. 企画課
     課長以下6名体制(うちWEB専従1名)で病院全体の業務環境を整え、スタッフが効率的に働けるようマネジメントしている。2014年に完成した近森病院だけでなく、近森会グループ全体の増改築工事7カ年計画では、診療現場の要望を吸い上げ設計事務所と調整し、患者動線にも配慮した空間となるよう様々な角度から改善を図るとともに、新しい建物の運用規程やサイン計画などのとりまとめを行っている。また、2020年現在は、新型コロナウイルス感染症に対応し、不足する資機材の確保や院内の体制作りに尽力している。その他、種々の新規プロジェクトが同時並行的に進行しており、それらの企画と調整、とりまとめにあたっている。
     ハード以外では、日本医療機能評価機構の認定更新の事務局として部署間の調整や書類整備を支援しているほか、医療法や健康保険法に基づく病院施設への立ち入り検査への対応、助成金にかかわる申請手続き、各種団体、行政機関、学会などからの診療に関するアンケート調査など、医療現場の負担軽減のための窓口となり、各部署への振り分けやとりまとめといった業務を担っている。
     2019年からはWEBサイト構築と運営に関する業務を企画課へ集約し、医師や各部署からの要望に応えている。全面更新を行ったホームページは内容が充実していると評判が良く、2020年1月~12月までの年間アクセス数は、近森会グループ全体で訪問数18.4万回、閲覧数110万ページとなっており、患者さんの円滑な受診、医師、看護師はじめ多くのスタッフを全国から確保する手段として有効に働いている。
     その他、ポスターセッション用の印刷や制作、院内掲示物の作成や管理、また最近では各種講演会の動画編集を行い、院内教育へ二次利用することも多くなっている。委員会や健康保険組合が発行する広報物などへもサポートを拡げており、ブランディングを意識した活動展開に注力している。
  2. ICT推進課
     課長以下3名で構成されている。近年、医療技術の進化とともに情報通信技術の進化はめざましく、特に昨今では情報通信技術を組み合わせた医療機器が数多く実用化されている。近森会グループにおいても従前の運用や形にとらわれることなく、さらなる効率化や職種の壁を超えてグループ全体で情報通信技術を使った業務の効率化を図ることを目的として2020年7月に設立された。
     設立以降インターネット上で開催されるweb会議の拡充や、院内講演会のweb配信、感染防止対策のため全館面会謝絶となっていた背景を鑑み、タブレットによるビデオ通話アプリを使った「web面会」の取扱い開始を主導してきた。
     他にもERから要望のあったトリアージシステムの導入検討や健康管理センターからの要望に基づく特定保健指導システムの導入、総務課要望の職員向け給与振込データの伝送化等、そのつど院内関係部署と連携して電子化、効率化に向けた支援を行っている。
     各々のプロジェクトごとに、現場の声を聞き、運用を知り、組み合わせる技術と機器を選定している。そして何より新しい技術であっても専門的な知識なく使えることが絶対的条件であり、導入後の運用方法の提案や手順書作成までを担当している。
  3. 電子カルテ管理課
     課長以下、6名の医療情報技師と1名の診療情報管理士を含む6名で構成されている。近森会グループ内のコンピューターシステムの導入、運用、保守管理を担当している。システム構成は電子力ルテ、オーダリングシステムを中心に医事、薬剤、検査、画像、透析、栄養管理、文書管理、病歴管理、介護、看護支援など20以上のシステムが連動している。また、院内情報伝達システムとしてサイボウズがあり、院内電子メールや掲示板、キャビネット(文書保存)機能を職員間や部署間で利用している。電子カルテを中心としたこれらのシステムは、カンファレンスですり合わせる情報共有の仕方に比べ、情報交換のみで情報を共有できるため処理能力が高く、チーム医療に際してスタッフの情報共有に大きな役割を担っている。
     電子カルテ管理課独自の業務以外にも診療支援として4月入職スタッフや中途採用の医師に対する電子カルテの操作訓練、既存システムの運用保守や改善、他院からの画像データや各種診療データ、デジカメ画像の電子カルテへの取り込み、各種統計データや帳票出力を行い、詳細な診療実績の把握、さらには各種アンケート調査や提出物に対する対応などを行っている。
  4. 診療情報課
     課長以下、診療情報管理士8名、医療安全1名、司書1名を含む13名で構成されている。入院患者の診療情報を管理する通常業務以外に、診療支援として、医師のDPC病名決定のサポート、手術情報の登録、全国がん登録などを行っている。施設基準や学会、各種アンケートなどの院内外からの症例抽出依頼は、年間約100件に対応している。また、DPCデータの加工や分析を通じて、地域医療における近森病院の診療実績評価や先進病院と比較したベンチマークを行い、経営判断の資料として役立っている。さらには、死亡診断書に対しては診療情報管理士のチェックとともに、院長、内科、外科部長、学術担当理事が全例について検討を行い、それに基づいて死亡診断書の記載医師に対する指導を行っている。
  5. 医事課
     近森病院の医事課は、84名で、課長1名、各担当の主任8名、入院係19名、外来係42名、文書係8名、医事統計係4名、地域医療連携センターへの出向2名、うち診療情報管理士は24名である。ちなみに管理部全体で診療情報管理士は37名で、診療録管理体制加算がはじまった2000年4月にはすでに6名のプロパーのスタッフを育成していた。通常業務以外の診療支援としては、診断書などの各種書類の発行時に文書作成の代行を行っており、ほとんどの書類において医師は確認の上サインをするだけとなっている。受付業務においても、診療科に対する問い合わせにもできる限り対応しており、患者からのクレームに対しても危機管理室と連携し初期対応を行い、できるだけ医師、看護師に負担をかけないようにしている。その他、電子カルテ管理課や診療情報課と連携し、詳細な医事統計を出すことで経営判断に必要な資料や定例報告、各種外部アンケートに対応している。
  6. 施設用度課
     課長代理以下6名で構成しており、病院施設設備の改修と維持管理および高額な医療機器から細かな消耗品まであらゆる物品の調達を行っている。
    いずれの業務も発注や納品の事務処理を担っているだけでなく、各部署の要望を聴取し現場にあった状態で納品できるようにすると同時に、費用対効果を踏まえ最適な投資となるよう、取引先との価格交渉や安価に済むような代替案への提案を積極的に行い、経費節減に努めている。
     2016年までの建築7か年計画においては、その検討の中で高額設備・備品の導入が決定されてきた。それ以降、高額な案件の正式な検討の場として2017年1月から高額医療機器検討委員会が立ち上がり、この委員会の中で高額な投資案件の是非を決定するようになったが、その事務局を同課が担っている。基本的には導入希望のあった医療機器や各システムなどを各部署がプレゼンする形式で進められるが、検討をするための事前の情報整理、価格交渉、院内全体の整合性の調整など、各プロセスへの関与をおこなっている。
     またCT、MRI、血管造影装置、X線撮影装置などの大型医療機器における保守は、一律でフルメンテナンス契約にするのではなく各機器の使用条件・各メーカーの提案内容を鑑みて費用対効果が最適なプランを同課にて選定している。
     医療材料においては昨今のコロナウイルス感染症の拡大時期にもマスクや医療ガウンをはじめとした必要資材の確保にいち早く乗り出したことで欠品を引き起こすことなく、たとえばマスクは職員に1日1枚の提供を維持することを実現した。そのほかの診療材料についても他県の民間病院と共同購入グループを形成しており、質の高い診療材料を適切な価格で仕入れできるように対応している。
     施設の改修においては、最近では建築7か年計画後に毎年発生している部分的な施設改修に対応している。いずれも診療エリアでの工事となるが、病棟閉鎖など診療および病院収入に大きな影響が出ることは避けながら改修を進めている。しばらくは大きな新築・増改築は予定されていないものの、照明のLED化や通信技術のインフラ整備などといった、医療の質の向上や経営収支において「じわり」と効果を発揮するであろう地道な活動を着実にこなすことが同課には求められる。

2)総務部

 総務部長のもと総務課、経理課、秘書課から成っている。それぞれの部署は濃い薄いはあるものの診療支援に関与しているが、秘書課は医師に対する診療支援で述べるので、ここでは広報・教育担当の活動を取り上げることとする。
 総務課の広報・教育は担当3名で多職種との連携を図り、様々な業務に対応している。
まず広報業務においては、院内誌『ひろっぱ』は月1回3,500部発行しており、近森会グループの現状と病院を取り巻く医療環境、何よりも近森がどこへ行こうとしているのか、理念や価値観の共有において、ホームページととともに、もっとも大きな情報ツールとなっている。おなじく月刊の『ホットライン』では主に医師の専門分野の紹介を行い、毎春発行の地域医療連携ガイド発行とともに、かかりつけの先生方への情報発信を行っている。
 各種イベントでは地域医療講演会、公開県民講座、入社式、その他各種学会や研究会のサポート、院内ピアノコンサート、献血、こども劇場、その他のレクリエーションなどを行っており、各種調整、会場の準備、受付案内、写真撮影、広報など八面六臂の活躍をしている。中でも、2018年にスタートした「ひろっぱ講座」は医師以外の専門職が地域に出て出前講座を行うもので、初年は94回の開催で延べ3700人を集め、大変好評を得ている。
 外部の病院や団体の見学や研修もスケジュールや担当の調整、案内、懇親会の手配などを行っており、全国から多くの医師や看護師、リハスタッフ、薬剤師、栄養士、事務、学生などの多職種に対応している。
 その他、退院時アンケートや外来アンケートでは回答部署への振り分けやとりまとめを行い、患者ニーズの把握と対応に役立てている。かかりつけの先生方の医療機関を訪問し、『ひろっぱ』やホームページに掲載、かかりつけ医紹介カードの作成などを行い、地域医療連携の支援を行っている。また、院内でのニュースを発信すべく、新聞、テレビなどの取材対応を行い、適宜Facebookなどの媒体を使用し、PRを心がけている。
 教育業務においては、人材育成委員会の事務局として、グループ目標を担当し、各部門に設定するよう働きかけを行い、定期の階層別研修、人事考課研修なども数多く開催している。その他ハラスメント対策研修などその時必要な研修を随時開催している。近森会グループ学術集会運営も行い、優秀演題から論文集も制作している。また、スタッフ対象に外部講師を招いて、毎月統計セミナーを開催するなど、教育サポート業務も担当している。

3)地域医療連携センター

 院長直轄の部署は患者サービス部、臨床研修部、医療安全管理部、感染制御部などがある。それぞれ診療支援を行っているが、ここではもっとも診療支援として活動している患者サービス部の地域医療連携センターを取り上げることとする。院長直轄部署の一つである地域医療連携センターは、地域医療支援病院である近森病院と県内各医療機関との地域医療連携を支えている。2014年に地域医療連携室と医療相談室を統合し、前方・後方それぞれの連携リソースをより円滑に共有できる現在の体制に再編した。スタッフはセンター長医師1名、看護師4名、ソーシャルワーカー15名、クラークを含む事務6名の計26名で構成され、それぞれが専門性を活かしながら協働している。
 主な診療支援として、前方連携では各科専門外来への紹介予約調整を担当している。このうち緊急性の高い症例はERと協力して当日受診へ繋げるなど、救命救急センターの役割も加味した受け入れに努めている。後方連携ではソーシャルワーカーとディスチャージナースを中心に、次の治療ステージへの転院・退院支援や在宅医療の介入調整を行うほか、患者家族からの医療福祉相談にも毎日対応している。また、当院では早期からベッドコントロールナースを診療現場に近い同センターに配置し、病棟師長とともに各病床の効率的運用と現在の高度急性期病院に不可欠である在院日数短縮や重症度、医療・看護必要度の緻密なマネジメントに取り組んでいる。その他事務的支援として、病院運営の指標となる紹介・逆紹介等の様々なデータを可視化し地域医療連携委員会で戦略の検討を図るとともに、並行して医療機関への医師を同伴しての訪問や広報活動によるフェイス・トゥー・フェイスの関係構築を促進している。
 なお、近森リハビリテーション病院にも地域連携室、近森オルソリハビリテーション病院にも地域連携部を設け、グループ全体で急性期~在宅に至るまで幅広く地域連携に注力している。

医師に対する診療支援

1)臨床研修部

 院長直属の部署で5名が担当している。業務内容としては初期臨床研修に関する研修管理委員会や修了式、研修医ミーティング、レジデントミーティング、研修医勉強会、同窓会などの開催やサポート、医学生の学外臨床実習や県内外の医学生の見学、医学生対象合同説明会のサポートを積極的に行い、若手医師の確保と臨床研修管理委員会の担当医師の業務軽減に貢献している。2017年に更新した卒後臨床研修評価機構による評価では最高評価のエクセレント賞をいただくことができた。
 2018年度から開始された新専門医制度では、事務局として近森病院が基幹となる内科、整形外科、救急科の3つの領域の専門研修プログラムの作成から運用支援を行っている。その他、連携施設となる複数の診療科の支援や、専門医資格更新に必要な共通講習の開催支援や認定証の発行を行っている。また、2021年度から本格的な運用開始予定のサブスペシャルティ領域の専門研修についても各診療科の支援を行っている。
 グループ内の全ての若手医師に対しては、資格取得やキャリア形成の一助となるべく、高知医療再生機構が行っている専門医等資格取得や国内外留学の公募事業について、補助金申請から報告まで全面的に支援している。

2)秘書課

 近森病院では以前から各医局のニーズに合わせて秘書をプロパーのスタッフとして雇用しており、医師事務作業補助者体制加算がはじまった2008年4月には15名の秘書が在籍し、加算を算定することができた。2年後には15対1となり、現在27名の陣容になっている。秘書課は総務部に属しており、近森会グループ全体で課長以下38名のプロパーの秘書で構成されている。各科共通の業務としては医師のスケジュール・勤怠管理、医師入退職の連絡、ロッカーやユニフォームの手配、各種の手術や処置、検査、入院患者のリストの作成、紹介状などのスキャン、研修会や学会などのイベント行事の運営支援、カンファレンス準備や資料の作成、学会や講演会資料の作成、医局会や各種会議の資料準備や議事録作成、各種治験や学会のデータベースへの入力とデータ管理、医局業績管理や医局会計管理、文献検索、各種案内の出欠管理、年賀状や礼状の送付管理、お中元やお歳暮の管理、出張の手配など医師の事務的な業務のほとんどに対応しており、医師の事務業務の負担軽減に大きな役割を担っている。
 各病院、各科で医師数と業務量に大きな違いがあることから、秘書の業務もさまざまで各診療科の特徴がよく出ている。たとえば近森リハビリテーション病院では患者数に対して医師数が相対的に少ないことから、6名の秘書を配置しており、そのうち4名は病棟の医師の入力業務の代行や診療業務のサポートを行っている。内科でも医師数、患者数が多いことから9名の常勤と4名のパート勤務者が配属されており、外来クラークと協力して外来診療での代行入力や予約入力、入院台帳の記入や病棟への連絡、各種入院書類の台紙の立ち上げなどを行っている。心臓血管外科では3名配属されており、医師が手術記録や紹介状、レセプトの注釈などを音声入力しておき、秘書がテープをおこし電子カルテに移行している。病棟回診やカンファレンス、外来診療でも秘書が代行入力している。
 医療秘書の業務を分類してみると、医師の指示のもとで単に業務を行っている人事レバレッジのレベルなのか、タスクシフトして医師にとってなくてはならないダイヤモンドのように輝いている医師の片腕としての秘書なのかが認識できるようになる。

看護に対する診療支援

 看護に対する診療支援は、2010年4月急性期看護補助体制加算として算定できるようになる以前から、外部委託スタッフとして積極的に対応していた。近森病院の看護補助の職種はアテンダント、クラーク、ポーターに大きく分けることができる。

1)アテンダント

 アテンダントは49.05名で診療報酬で算定が認められる一般病棟ではプロパーのアテンダントが22.75名(障害者雇用1.6名含む)、診療報酬上認められていない放射線科や内視鏡センター、中材、透析室、重症病棟では外部委託のアテンダントが19名在籍している。業務内容としては患者の身の回りのケア、患者搬送、リネンや洗濯物の管理、入退院時のベッドの作成や病室の準備、他部署へのメッセンジャー、オムツなどの備品の整備や病棟の環境整備などを行っている。

2)クラーク

 クラークは61名で、外来クラークと病棟クラークに大別される。
  1. 外来クラーク
     ほとんどが外部委託の32名で、各科の外来以外にも地域連携室(2名)や入院窓口(4名)、救命救急センター(6名)、内視鏡センター(5名)にも配属されている。内科外来が19名ともっとも多く、従来の外来看護師の業務のほとんどを担当している。
     業務内容は来院時紹介状の確認、ナースコーナーでは問診票の記載、バイタル、主訴の確認、カルテや検査結果の準備、検査や処置の案内、患者や検体の搬送、診察室では待合室の誘導表示、電子カルテの画面表示、診察介助、着脱介助、必要物品の準備や整理、病状説明の立会や記録、補足説明、予約券や処方箋、次回検査の準備や案内、電話対応では予約日の変更や内服、検査の問い合わせへの対応、書類の整理として、同意書や紹介状、CD、コピーなど添付書類の依頼やスキャンなどを行っている。
  2. 病棟クラーク
     病棟クラークは12名で、重症病棟の4名以外はすべてプロパーのクラークになっている。業務内容としては病棟の受付業務、帳票類の管理としてカルテの整理や量的監査、診療情報提供書や持参物の準備、連携パスの仕上げなど、電子カルテの入力では入退院、転入出などの予定、確認の入力、基準日入力、主治医登録、紹介情報の入力、各種書類のスキャン、デジカメ画像の取り込み、文書管理システムのフォルダ整理、メッセンジャーとして他科受診や御中、検査や手術時の患者搬送や検体搬送のポーター依頼、回診やカンファレンスの準備などを行っている。

3)ポーター

 ポーターは6.64名で、障害者枠で雇用した2名を含めすべてプロパーのスタッフになっている。ポーター業務としては、患者搬送としてベッドやストレッチャー、車いす、独歩での搬送を患者搬送基準に基づき実施している。検体搬送として真空管や密封容器へ梱包された検体搬送を行っている。

4)その他

 ERでは救急救命士、病棟や外来では歯科衛生士などがそれぞれの専門性を発揮して看護のサポートを行っている。

おわりに

 21世紀の急性期病院においては、業務量が膨大で医師、看護師だけで医療を行うことは不可能になり、多くの医療専門職が病棟に常駐し、それぞれの視点で患者を診、判断し、患者に介入して自律し、自働することが求められている。そのため、多職種による多数精鋭のチーム医療が行われ、医師、看護師から周辺業務をとるとともに、国家資格のないスタッフによる診療支援により、医師、看護師から雑用をとることで医師、看護師の業務はさらに絞り込まれ、医師は診断、治療に専念できるようになり、看護師も看護に専念できるようになった。チーム医療と同じように診療支援業務でも専門性を高め自律、自働してマネジメントすることで、多くの医療専門職から頼りにされ、国家資格のないスタッフでも、いきいきとやりがいをもって働くことができるようになっている。病院に勤務している医師、看護師、薬剤師、リハスタッフ、事務、クラーク、アテンダント、掃除のおばさんに至るまで、みんなが患者さんに早くよくなってもらおうと心をひとつにして働く、みんなが平等で独立している、そんなフラットな組織が21世紀の労働集約型医療サービス業の病院には求められている。

参考文献
1)今枝昌宏, サービスの経営学, 2.7レバレッジ:72-78, 2010.

※病院 第72巻 第11号 2013 Nov. Vol.72, No.11 P.858-864
株式会社医学書院 2013年11月1日発行の原稿をもとに2021年1月追記・修正