理事長のドキュメント
『週刊 医学のあゆみ』Vol.247, No.11, 2013.12/14 掲載
P.1137-1142 医歯薬出版株式会社
2013年12月14日発行
地域急性期病院におけるアウトカムの出るNST
社会医療法人近森会 近森病院
院長・NST Chairman 近森 正幸
はじめに
21世紀を迎え医療の高度化と高齢社会の到来で、毎日多数の患者が入院する急性期病院の業務量は膨大となる。診療報酬も出来高払いからDPCによる一日包括払いに変わり、病院の業態も物品販売業から労働集約型医療サービス業に大きく変化している。これにより従来の検査や薬剤、食事といったモノを売るのではなく、形のない付加価値を生みだして提供するようになり、これを報酬に変えるには種々のマネジメントが必要になってきた。その大きなツールは地域医療連携であり、病棟連携、チーム医療であるが、チーム医療のなかの栄養サポートチーム(nutrition support team以下、NST)について、地域住民の生活を支える責任がある地域基幹病院の立場で述べてみたい。
「なぜ栄養サポートするの?」と問われたとき、「NST加算を算定するため」と答える人もいるだろうし、「食事を出すため」と答える人もいる。NST加算を目的とする場合は、加算という現物給付で報酬をもらっているだけなので、物品販売業の病院の発想といえる。一方、食事を出すという発想は、経口や経腸栄養によりできるだけ腸管を使って栄養状態を良くして、末梢輸液を減らし、免疫能を高めて抗菌薬を減らすという病院の医療を変えることになる。つまり、「患者を元気にして家へ帰す」という付加価値を生みだすサービス業の病院であることを意味している。
このようにこれまで常識だった医療が時代の変化で変わらざるを得なくなり、NSTにおいても同様に、発想の180°の転換が求められている。
高齢社会の到来と栄養サポート
高齢患者の特徴は認知症と低栄養、廃用で、業務量の極めて多い手間のかかる患者である。低栄養、廃用は骨格筋が乏しく、栄養状態が悪いことを示している。高齢患者は三次救急のほとんどを占めており、重症化しやすく高度医療にさらされ侵襲が非常に強くなり、急速に骨格筋が減少し、栄養状態が悪化する。
これを防ぐには、医師中心の質の高いチーム医療で根本治療を迅速、確実に行い、侵襲を早く減らし、早期の栄養サポートとリハビリテーション、早期の臓器代償療法、マスクによる人工呼吸や早期の透析介入、人工心肺やIABPなど、多職種による効率的なチーム医療を行い、骨格筋を維持し、栄養状態を改善して退院させなければならない。このように侵襲が非常に強く栄養状態が急速に悪化する急性期医療においては、栄養サポートのみを提供するだけではなく、入院直後から必要な患者すべてに必要なすべてのサービスを提供しなければ患者の栄養はよくならず、アウトカムは出ないといえる。
そのため、重症患者が最初に入院する当院の救命救急病棟18床や集中治療棟18床では医師、看護師ばかりでなく、管理栄養士の業務量は特に多いことから、一般病棟よりはるかに多い1病棟2名の担当と2病棟5名体制で対応しており、薬剤師はそれぞれ1名担当、3名体制、理学療法士は10名から20名が介入している。さらに臨床工学技士の人工心肺、IABP、人工呼吸を扱う急性期チームは10名体制、透析やエンドトキシン吸着は透析チームが担当、メディカルソーシャルワーカーも常駐し、医事課や病棟クラーク、アテンダントもチームに加わり、多職種によるスタッフステーションとして機能し、「患者を早く治す」という付加価値のために、必要なサービスは加算のあるなしに関わらずすべて提供している。
チーム医療のいろいろ
日本の医療界においては、カンファレンスですり合わせをして情報を共有する医師を中心としたチーム医療が主体であったが、高齢社会となり入院患者の半数に栄養サポートが必要な時代を迎え、業務量が膨大となり、より効率的なチーム医療が求められている。ここでは、必要とする患者すべてに栄養サポートを提供するためのチーム医療について考えてみる。
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ピラミッド型チームとフラットなチーム医療(図1)
従来の医師、看護師中心の少数精鋭の医療から自然発生的に移行した「医師中心のピラミッド型チーム医療」は、医師を頂点としたチーム医療で、医師が医学的に患者を診て判断し、各部署から病棟へ出てきた多職種に指示を出し、各職種は業務を行うというチーム医療になる。
一方、「多職種による多数精鋭のフラットなチーム医療」の「多数」は多くの医療専門職が病棟に配属され常駐することを示している。「精鋭」は各職種がそれぞれの視点で患者を診て判断し、患者に介入、自立、自動することを意味している。それぞれの視点で診ることで全人的に患者を評価でき医療の質が向上、それぞれが判断して介入することで業務の処理能力は飛躍的に上がり、労働生産性が向上する。この二つのチーム医療は病院の組織原理の違いであり、前者は物品販売業、後者はサービス業の病院に適した体制といえる。 -
情報共有の在り方で分けられるチーム医療(図2)
重なりの大きいタイプの「もたれあい型」チーム医療は、多職種がカンファレンスで医師にもたれてすり合わせして情報を共有するため、チーム医療の質は高いが時間的空間的にコストがかかり、処理能力には限りがある。そのためリスクの高い数少ない患者に対する質の高いチーム医療に適しており、医師中心の治療目的のチーム医療が主体になる。 重なりの小さいタイプの「レゴ型」は、組み合わせおもちゃのレゴブロックからきており、電子カルテや二言、三言の情報交換で情報を共有し、業務の標準化で質を保ち多くの患者を処理できる。リスクの低い数多くの患者に対する効率的なチーム医療に適しており、患者の状態を良くするNSTやリハビリテーションなどのチーム医療が主体になる。 現在のNST加算の算定要件は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士がカンファレンスですり合わせをして情報共有する医師中心の栄養の治療目的の「もたれあい型」チーム医療(nutrition treatment team:NTT)であり、処理能力に乏しく、チームのスタッフがそれぞれのコア業務を犠牲にしていくら頑張っても必要な患者すべてに栄養サポートができず、病院全体のアウトカムも出すことができない根源的な原因となっている。コアの業務が栄養である多くの管理栄養士を病棟に常駐させ、効率的な「レゴ型」チーム医療で必要な患者すべてに栄養サポートを行うことで、アウトカムの出るNSTとなる。ただ課題として、患者を栄養士の視点で診て判断し介入できる、患者の診れる管理栄養士が極めて少なく、限られた現場でしか実践できない現実がある。
「もたれあい型」の特徴は、医師にもたれてというように多職種の専門性が低くても医師がリードして情報共有の質が高いことから、教育カンファレンスに向いており、管理栄養士が病棟へ出て患者を診るための知識を身に付ける絶好の機会となり、これをステップとして臨床管理栄養士が全国で数多く育つことを期待している。
近森病院のNST
高知県は全国有数の高齢県であり、当院には65歳以上の高齢者が75%以上入院している。そのため入院患者の45%に栄養サポートが必要であり、病棟常駐型レゴ型チーム医療が主体となる。多数精鋭の管理栄養士(図3)が病棟に常駐し、電子カルテに記載したり、主治医や担当看護師と二言、三言の情報交換で情報共有し、リスクの低い数多くの低栄養患者に対応している。専門部隊型もたれあい型のチーム医療は、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床検査技師、管理栄養士が集まってカンファレンスやラウンドですり合わせをして、対応の難しい少数の低栄養患者に知恵を出し合って対応している。
病棟常駐型レゴ型チーム医療では、入院時と週に1回受け持ち看護師による6項目の簡単な栄養評価表で栄養スクリーニングを行い、1項目でも該当する場合は栄養リスク患者として臨床栄養部のクラークがとりまとめを行っている。病棟の担当管理栄養士はそのリストに基づき、栄養アセスメントシートに詳しい栄養評価を行うとともに栄養プランを作成、多職種が理解できる書式で電子カルテに記載して情報共有を図っている。病棟で主治医と栄養プランを相談し承認してもらい、病棟担当の管理栄養士、看護師、薬剤師が協力して栄養サポートを実践している。
NST体制のトライアルとアウトカム
当院のNSTは2003年7月管理栄養士4名体制でスタートした。夜中まで病棟を掛け持ちして頑張ってくれたが、充分な成果を上げることはできなかった。そこで2006年近森病院がDPCによる一日包括払いと電子カルテを導入し、チーム医療の基盤整備が進んだことから、1病棟1管理栄養士体制にすることを決定、徐々に管理栄養士を増員することができた。重症患者に対する夜間呼び出し体制や土日祝日の回診体制、入院時の全患者に対する訪問と栄養評価、重症患者担当制などを行い、病棟の医療専門職としての勤務体制を構築した。2008年10月には管理栄養士の病棟配属が始まり、2010年には、重症病棟のNSTカンファレンスを新人や研修生に対する教育カンファレンスに切り替え、管理栄養士を質、量ともに充実させることができた。2011年4月には、345床で管理栄養士22名体制となり、2病棟1フロア3名体制の病棟常駐が整備され、病棟に管理栄養士がいないと困る時代になった。
こうした努力により、NST介入症例はNSTが稼働した2003年は799症例であったが、2012年には3,636症例に増加している(図4)。NST導入の費用対効果も管理栄養士の増加に伴い人件費は増えているものの、病棟に常駐し必要な患者すべてに適切な栄養サポートが実践されることで、技術料が増加するとともに食事が増加し輸液が減少、免疫能が高まることで抗生剤も減少している。近森病院の医療が本来あるべき姿に変化し、重症病棟でも経口・経腸栄養が増え、重症患者の輸液は無いか1本となり、多くの管理栄養士を投入して付加価値を生みだし、コストの削減も相まって充分採算のとれるNSTになっている(図5)。
患者が診れる管理栄養士になるために
栄養サポートのほとんどのルーチン業務を管理栄養士が担ってくれれば、他の職種からNST活動の負荷を取り、医師、看護師、薬剤師は本来業務に専念できるようになる。そのためにも管理栄養士は病棟に出て患者を診なければならないが、全国のほとんどの管理栄養士は病棟業務に関心がないか、患者を診るためには、医師レベルの医学的知識や経験、さらには栄養学の難しい知識が必要と思い込んでいるところに日本の管理栄養士の悲劇があるように思えてならない。 管理栄養士の栄養に関する知識と経験は、少数の栄養の専門家以外は医師をはじめどの職種にも負けないといえる。栄養を評価しプランを作る業務を標準化し、ルーチン業務としてスムーズに行うことと、患者や医師、看護師、その他の医療専門職とのコミュニケーションのためにみんなが知っている基本的な医療人の常識を身に付けることが必要になる。
基本的に管理栄養士は病棟においてワーカーではなく栄養のマネージャーなので、当院では研修体制も初期研修医に準じた対応をしており、管理栄養士が患者を診るための研修は、2段階の教育システムを取っている。
第一段階として、院長や各病棟のNST担当部長がラウンドやカンファレンス、レクチャーを通じて医療専門職になるための教育を行っている。他の医療専門職の信頼を得るために、共通言語としての医療用語や検査データ、XP、CTスキャンの画像など、共通概念として特に臓器不全や敗血症、脱水、ショックといった病態、カンファレンスの時の姿勢や表情、声の出し方、コミュニケーションなどの立ち居振る舞いに至るまで、医療人の常識をたたきこんでいる。さらには、医療専門職としてこの患者を良くしたいという共通の価値観を共有するようにしている。
次に、先輩の管理栄養士が新人教育カリキュラムに基づいたレクチャーや症例検討会、屋根瓦方式のマンツーマンで実務的な栄養サポートの知識や技術を教え、標準化されたルーチン業務を徹底して身に付けるようにしている。
この2段階の研修を受けることで、ひとつひとつあやふやでつながっていなかった知識が整理され病態を理解し、栄養のルーチン業務ができるようになり、入職半年後には病棟担当の管理栄養士となり1年後には一人前の臨床管理栄養士としていきいきと働いてくれている。
おわりに
これからの地域急性期病院は、高齢で重症の患者に対し高機能病棟でできるだけ早く患者の侵襲を取り、回復させ、自宅へ帰すことが求められている。このためには、医療機能を高度化し患者を早く治すことと、充分な栄養サポートやリハビリテーションなどの必要なサービスが行われることが必要になる。業務量はスタッフ数×時間であり、時間は限られることから業務量が増えればスタッフ数を増やさざるを得ない。患者を早く良くすることで病院の医療の質は上がり、患者数が増えるとともに労働生産性も高まり、ベッド単価が上がることから十分なマンパワーの原資となる。
患者を早く家へ帰すNSTにも、良質で効率的なチーム医療が求められている。数少ないリスクの高い患者には質の高いチーム医療で個別対応をすればいいし、数多くのリスクの低い患者には効率的なチーム医療をルーチン業務として行えばいい。チーム医療をうまく組み合わせデザインすることで、スタッフみんなが専門性を高めやりがいをもって生き生きと働くことができる、そんな病院組織がいま求められているのではないかと思っている。