巻頭言

【理事長】これからの近森病院を託して

理事長 近森正幸 時の分水嶺 近森にとって、2016年は激動の1年間であった。 2016年4月の診療報酬改定は、10年後に振り返ったとき、日本の医療が大きく変わった「時の分水嶺」ともいえる改定であったと考えている。この変化の予兆は2年前の2014年改定の重症度、医療・看護必要度AB15%の導入であったが、近森会全体の増改築工事で病床が制限され、収入が減少したところに、建築費や設備費などの出費が重なり、その影響を正確には把握できていなかった。 いま見直すと、2年前から大きな変化が起こっていたように思う。 マイナス改定の影響は、稼働率や単価の低下による売り上げの減少、さらには人件費コストの増加などにより、全国的に病院収益の急激な悪化が起こっている。なかでも高知県は人口が減少し患者数が限られているところに、全国平均の倍の病床数と3倍の療養病床、さらには急性期基幹病院が6病院と救命救急センターが3病院あり、機能分化が急速に進んでおり、今回の改定の衝撃が最も強く高知の地域医療に表れている。なかでも近森病院においては、5カ年計画による全面的な増改築工事に伴う膨大な有利子負債の増加があり、4月から元金の返済が始まったこと、急性期病床の114床増床による先行的スタッフの採用に伴う人件費増で、全国でも最も大きな影響が出た病院の一つであった。   救命救急医療の基幹病院として 近森病院の急性期病床を338床から452床へ増床したことは、従来の「単価のアップ」から「患者数のアップ」へ方針転換したことを意味しており、救急入院患者数、重症入院患者数を飛躍的にのばして中四国でも有数の病院になったことで、人口減少、患者減少の時代の高知県の救命救急医療の基幹病院として生き残る大胆な「投資」を行ったことを意味している。 7年前の5カ年計画を始める前の近森病院と現在の近森病院を比べてみると、「一般急性期病院」から「高度急性期病院」に機能、規模ともに飛躍的に充実している。以前の近森病院のままであれば、21世紀の高度急性期医療に適応するハードではなく、ベット数も338床に抑えられ、月に200台~300台の救急車のお断りが続いていた。 医師やスタッフを増やし、医療の質を上げる原資もなく、今回の診療報酬改定を契機に近森は衰退の道をたどっていたのではないかと思われる。   高知の地域医療は再構築の時代に 今回の診療報酬改定は「急性期医療」においては全体のマイナス改定とDPC医療機関別係数の低下による患者単価の減少、7:1看護の重症度、医療・看護必要度のABC25%ルール、高規格病棟の新AB80%ルール、さらには、小児科や産婦人科のある公的病院の総合入院体制加算のAC27~30%ルールなどにより、入院患者の絞り込みと在院日数、稼働率の低下が急速に起こっている。 高規格病棟への入室制限や一般病棟への転棟促進で患者単価のさらなる低下が生じ、売り上げの急激な減少による重症救急患者の取り合いが増え、高度急性期病院への重症患者の集中と基幹病院のなかでも2極分化が生じている。 さらには、100床あたりのスタッフ数の少ない一般病院の入院患者数が減少し、入院患者の軽症化による在院日数の短縮も重なり、稼働率が著しく低下、一般病棟から地域包括ケア病棟への転換や病棟閉鎖、病床の削減が現実となっている。 「回復期医療」においては、回復期リハはFIMによる実績指数の導入により、在院日数や稼働率の低下、患者単価の減少が生じ、回復期リハ病棟においても高機能のリハと低機能のリハへの2極分化が進んでいる。 地域包括ケア病棟は在院日数と在宅復帰率のしばりで運営ノウハウのない病院では稼働率の低下が続いている。 「慢性期医療」においても医療区分2、3の80%ルールで療養病床の空洞化と、医療区分2、3、50%ルールの95/100算定で患者単価の減少が生じ収益が急激に悪化、廃院や施設化が進むと考えている。 こうしてみてみると、高知県の地域医療...

【管理部長】平成28年を振り返って

常務理事・管理部長 寺田文彦 昨年4月より、川添常務理事兼管理部長のあとを受けて、新しく管理部長職を拝命し1年が経過しました。10月には常務理事職を拝命し、法人全体を俯瞰する立場となりました。 今年4月の診療報酬改定は高度急性期である近森病院にとって非常に大きな転換期となりました。 今までは稼働率を上げて豊富な人材や設備投資が可能であったが、診療単価の減少と入院制限を行うことにより、稼働率90%でも採算分岐を切るようになり、大学病院や自治体病院を含め稼働率の低下と収益の減少が直面した1年であった。 医療の質や労働生産性、稼働率を上げることで患者数増加と売上アップを行い、専門性の高いスタッフ増員の原資にあててアウトカムを出してきたが、診療単価の減少と入院制限を行うことで、病院の存続をかけた生き残り合戦となり現場の疲弊を招き、スタッフの労働環境の改善と患者さんへの安全・安心の医療を提供できる環境作りに影響が出始めている。 良循環を行うためには、地域の患者数や競合病院、自院の医療資源に左右されるのはもちろんであるが、なにより診療報酬改定に左右されているのが現状である。8月以降は現場の努力で収支も改善し良い方向に向かっている。 近森病院は、3次救急など高度急性期の治療を行うために、5カ年建築計画で免震・耐震基準に加えヘリポートを設置し、ERや手術室、血管造影室や内視鏡センター、集中系病棟の全面拡張・整備を行った。手術や高度処置が必要な紹介患者の受け入れや救急搬入患者の増加・対応に努めると共に、重症の長期入院患者の転院促進が図られている。また、回復期機能を受け持つ、近森リハビリテーション病院や近森オルソリハビリテーション病院も新築・改修移転を行い、病棟やリハビリ訓練室の拡充、機器の整備を行ったことで、より多くの患者さんを受け入れて、より充実した治療や早期リハビリテーションができるようになった。 近森病院が7~9月の3か月で行ったことは 1)トップが危機の原因究明と対策の呈示 2)全職員との危機の共有 3)理事会の若がえりにより機能的理事会へ (現場を理解し、今までの固定観念にとらわれていない能力のある医師、管理部、看護部の参加) 4)院長直轄の病院経営改善委員会により、具体的対策を提示 (実務者によるワーキングでコミュニケーションを深め、セクト主義を廃し、具体的な議論を行い、現実的な対応策を提案する) 5)部科長会の再編成により、具体的対策の討議と決定 6)合同運営会議により周知徹底 今までは院長1人で考え、環境作りをするだけでよかったが、これからはトップダウンの方針のもと、現場が考え行動する時代になった。 今後の病院運営は、極めて戦略的に行わないと生き残れない時代となった。 近森病院では、 1)救命救急医療に特化し、リハビリとの「垂直統合」で在宅復帰を推進 2)地域医療連携を徹底し、より密接な「アライアンス連携」を推進 3)多くの高規格病棟と有機的な病棟連携に加え、多職種による病棟常駐型チーム医療を組み合わせる 4)教育、研修に力を入れ、スタッフみんながいきいきとやりがいをもって働く職場作り を実行することでこの難局を乗り越えようとしている。 2018年診療報酬同時改定の方向性として、急性期医療は医師の裁量権で自由に入退院が可能であったが、ビッグデータで7対1看護のDPC病院に「診療密度」の発想が導入された。 2014年AB15%ルールが導入され、EFファイルと突合することで2016年ABC25%ルールとICUのAB80%ルールが導入された。 また、高規格病棟の入院、退院基準も設定され、総合入院体制加算AC27~30%ルールで医師の業務量が分かるようになる。 加えて10月から導入される「Hファイル」の提出で看護師の業務量が分かり、7対1看護から10対1看護、13対1看護へと、ストラクチャーからアウトカム評価へ変更される。一方、介護施設ではデータの電子化により介護密度による「要介護度」設定が行われ、介護サービスを受けられる基準(入所の可否や会議サービスの点数)が決定されるであろう。 地域医療の崩壊を防ぎながら急性期病院のさらなる絞込みが行われるため、高度急性期医療をするためには高規格病棟と病棟常駐型チーム医療の必要性の真価が問われるであろう。 ハード面の更新として、今年1月には、近森オルソリハビリテーション病院の改装・移転作業を行った。運動器疾患の回復期ステージとして、急性期病院との強固な連携体制を更に構築し、整形外科の回復期リハビリのモデルとなる診療体制を構築して頂きたい。 近森リハビリテーション病院と同様に診療スペースを1.5倍に増加させ、新しい機器の導入などを行った。     5月には近森病院附属看護学校及び教育研修センターを改修移転し、より充実した環境整備のもと実績を出して貰えればと願っております。             今年、社会医療法人は創立70周年を迎えました。病床機能の明確化と診療内容の選択と集中を繰り返し、2025年に向けたあるべき医療体制の追求を行う法人として歩み続けたいと思います。...