アーキテクチャー×マネジメント18

病院
vol.75 No.6 2016 June P.400〜404 掲載
 株式会社医学書院
2016年6月発行

  

アーキテクチャー×マネジメント18
社会医療法人近森会 近森病院

医療・福祉施設建築の専門家が築後数年の病院を訪問し
建築のねらいが病院運営の実際にどう貢献しているかを探ります。  

筆者:宇田淳
 
■はじめに

 社会医療法人近森会は、近森病院(高度急性期~急性期病院:以下、本院)、近森リハビリテーション病院(脳卒中、脊損対象)、近森オルソリハビリテーション病院(運動器中心)の3つの病院に分かれ、有機的に連携し、「高度急性期からリハビリテーション、在宅まで」のトータル医療を目指し、地域医療を支えている。(図1)

 本院は、地域医療支援病院、災害拠点病院であり、患者数、手術件数ともに県内屈指の民間病院である。しかも救急車の搬入件数は年間約6,000件を超える救命救急センターもある。北米型ERを採用し、3次以外にも、1次、2次も受け入れており、心肺停止からウォークインにいたるまで、幅広い患者の診療をしている。さらに、病院の機能分化を推進し、「高度救命救急医療に絞り込む」、「外科医には外科医にしかできないことをする」をモットーに「選択と集中」で機能を絞り込み、各職種の専門性の向上に努め、医療の質と労働生産性を高め、チームアプローチすることで質の高い医療を提供することを目指している。

■発想の転換:チーム医療の推進

 現在、急性期病院は大きな変革の時代を迎え、旧体制の運営では対応できない。近森病院は「病棟常駐型チーム医療」を展開し、「多職種による多数精鋭のチーム医療」に大きく転換している。組織も「医師中心のピラミッド型組織」から「多職種によるフラットな組織」へと医療組織の変革を一早く推し進めている。

 入院直後~退院までの患者のステージごとに、チーム医療のあり方も変えて対応しなくてはならない。このため、各専門職の業務をコア業務に絞り込み専門性を上げ、業務の標準化を図り、根本治療には医師中心の質の高いチーム医療を行い、多職種による効率的なチーム医療で早く退院させている。膨大な業務を質高く、効率的に処理するための考え方を(図2)に示す。チーム医療を各職種の重なりから見ると、重なりの大きい「もたれあい型」と、重なりの小さい「レゴ型」に分かれる。もたれあい型は、相乗り(相補)型ともいわれ、従来のチーム医療の形で、重なり合った部分ですり合わせをして医師に依存して(もたれて)情報を共有している。医師のリスクの高い業務を中心に限られた患者に対応するため、医療の質を飛躍的に高めることができる。一方のレゴ型は、組み合わせおもちゃのレゴブロックから来た言葉であり、「モジュール化」の考え方に基づく。病棟での日常業務において、専門職が各々のコア業務を担当し、一言、二言の情報交換や電子カルテにより情報を共有し、業務の標準化で質を保ち、数多くの業務を効率よく行うことができる。栄養サポートやリハビリテーションといった多職種を中心としたチーム医療で、必要な患者全てにリアルタイムに適切なサポートを提供することができる。

 近森会の凄さは、リハビリやNSTなどのチーム医療が診療報酬の後追いではなく、診療報酬が同法人の実践を参考にして点数化しているのではないかと感じさせるところだ。

■2025年の社会保障・税一体改革に向けた近森会グループの5力年計画

 地域医療連携を推進し、平成12年以降、外来は逆紹介の推進、紹介・専門・救急外来への特化を行う一方で、入院は急性期へのシフトを行い、転院促進を実施した[逆紹介スタート(平成ll年)、開放型病院認可(平成12年)、地域医療支援病院認可(平成15年)]。そして、高度急性期医療にも耐えられる設備投資と、治療空間の拡大。何よりも増加したスタッフの空間を確保するためにも、ハード面での全面的な見直しをせざるを得ず、そのために平成22年春から近森病院全面増改築の5ヶ年計画がスタートした。これにより、管理棟、大規模立体駐車場、外来センター棟、北館病棟、ヘリポート付の本館A棟の建設と救命救急病棟の新設、高規格手術室、検査室の増設などの本館B・C棟の大改修など、近森病院の全面増改築工事が平成26年12月に完成した(図3、4)。

 本院は救急医療に機能を絞り込み、救命救急センターを中心としてハートセンター、消化器病センター、脳卒中センター、外傷センター、腎・透析センターなどが診療科の壁を取り払い、有機的に連携し合いながら救急医療に対応する。ここにも「モジュール化」の発想がいかされている。本館A棟は、免震構造の地上13階、屋上にはヘリポートを有する近森病院の中核的な建物となっている。救命救急センター内には中央部に垂大型の緊急エレベーターがあり、1階は4倍に拡充したER、2階には4室の高機能手術室を加え2階フロァ全体でll室の手術センター、3階の心カテ・内視鏡センター、4階のICUおよび救命救急病棟、5階のSCU、屋上ヘリポートと、重症患者に対する異なった機能が縦の動線で結ばれる。3階は外来センターと陸橋で結ばれ、総台的な検査フロア。4階の高規格の病棟には、多職種が病棟に常駐し専門性の高いチーム医療が展開されている。5階には脳卒中対応のリハビリ訓練室を有するSCUが北館病棟より移動、本館A棟完成後には旧一般病棟、厨房が全面的に改装された。

 5力年計画が完成したことで、高度急性期医療を担う新しい近森病院は、限られた敷地条件の中で要求される、高い病院機能を集約した施設づくり、建物周囲に公開空地を設けるなど快適な街路の形成による、良好な周辺市街地環境づくりがなされた。

 その後、江の口川対岸には、近森リハ病院が新築移転、旧リハ病院は全面的に改築され、近森オルソリハ病院が移転した。旧オルソリハ病院は、附属看護学校を有する研修センターとなった。

 これにより近森会グループの「急性期からリハビリテーション、在宅まで」のミッションが全ての施設でもれなく実行されることとなった。

■近森流マネジメント

 近森病院は高知県の救急病院の草分けであり、昭和39年、救急告示病院の法制化後直ちに認定を受けた。

 また、「日本医療機能評価機構」の認定も国内でいち早く受けるなど、独特の経営理念と近森正幸理事長のリ一ダーシップにより、その取り組みは先進的だ。

 病院運営においては、「患者さんを早く治して地域に帰す」という明確なミッションのもと、初期診療から検査、通院あるいは入院そしてリハビリというバリューチェーンが明確に意識されている。そのバリューチェーンが、実際に病院の施設の設計に反映されており、一連の対応に澱みがない。平成12年、開放型病院をスタートし、逆紹介を推進したことで、外来患者は、4年間で月1万5,000人から1万人へとl/3程度減少。その一方、外来単価は8,000円から1万2,000円と1/3程度増加した。つまり、外来収入は以前と同水準に、入院患者への対応を充実させるための時間的余裕を生み出すことに成功したといえる。

 「選択と集中」で病院の機能を高度急性期、救命救急医療に絞り込めば絞り込むほど足りない機能が出てくる。従って、「分業と協業」が必要となる。病院の機能を絞り込めば「地域医療連携」、病棟の機能を絞り込めば高規格の病棟で重症で手間のかかる患者をみて、落ち着けば一般病棟へ移すという「病棟連携」が求められる。さらに、医療スタッフの業務を絞り込めば「チーム医療」や「診療支援」が必要となる。病院の機能分化に早くから取り組み、回復期リハビリテーションの充実や栄養サポートなどの取り組みを全国に先駆けて実施してきた。このような医療環境の変化の見極め、情報の分析とそれに基づく意思決定といった経営者像がみてとれる。コアコンピタンスあるいはバリューチェーンといった経営戦略に裏付けられたマネジメントが実践されている点は興味深い。地域医療連携、病棟連携、チーム医療によって、スタッフの一人ひとりの生産性を高め、より質の高い医療を提供できる仕組みづくりが、近森流の経営スタイルだろう。

 「今回の近森病院の5力年計画の完成は、これらの病院機能の絞り込みのハード面、舞台が完成したことを意味している。日本がこれから迎える超高齢社会の医療に最も適した病院が近森病院であり、急性期からリハビリ、在宅に至る近森会グループである」と近森理事長は語った。

■おわりに

 図5は、近森理事長が院長就任したばかりのころに考えたシンボルマークである。近森病院の建物の側面に掲げられているそのマークは、今も高知市内を見下ろしている。ローマ字の"F"が2つ並んでいるように見える。「"Freedom&Flexibility"という意味を込めたものだ。遠くから見れば十字マークのようにも見えるし、風に揺らめく旗のようにも見える。患者のために、自由に柔軟に医療環場に適応していきたい」そんな思いを込めたものと伺った。

病院の全面改装が終わり、建物も設備も最新のものが整った。これからの近森病院はハードに続いて、ソフト=人材に投資がなされる。県外・海外の学会や研修会への参加を促し、自ら学びたいという気持ちを経営者としてバックアップすることにより、シンボルマークに込められた思いを育てるのであろう。

 本稿執単に際し。お忙しい中、近森正幸理事長には、長時間にわたりお話を伺うとともに、施設をご案内いただきました。また、病院関係者の方々には、取材へのご脇力と資科をご提供いただきました。ここに心からお礼申し上げます。


※転載にあたり、医学書院様よりテキストのみの許可をいただいている為、図表はございません。