『月刊/保険診療』

 

『月刊/保険診療』2014年7月号・
第69巻第7号(通巻1496号) 掲載
P.6-9   株式会社医学通信社
2014年7月10日発行

 

2014年改定への戦略と対策
地方の急性期DPC病院の立場で

  

社会医療法人近森会 近森病院
院長 近森 正幸

 

 
はじめに

 

 今回の診療報酬改定は、7:1看護に在院日数、重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率が導入されたことでも分かるように、在院日数の短縮は患者を早く治し、早く退院、転院させること、重症度、医療・看護必要度は重症の患者を受け入れること、在宅復帰率は患者を早く在宅へ帰すことを意味しており、従来のストラクチャー評価からアウトカム評価に大きく転換したといえる。
今回の改定への戦略と対策を考えた場合、「重症患者」の視点のみでは対応が見えづらいが、高齢社会を迎え「高齢、重症患者」の視点でみればその本質と対応がみえてくるように思う。簡潔にいえば、「高齢の重症患者を早くよくして早く自宅へ帰す」という2025年に向けた急性期本来の機能を徹底しただけであるが、急性期から慢性期、在宅への日本の医療のあり方、流れが大きく変わる概念の変化であり、医療機関の意識変革、行動変容を迫る大改革だといえる。


 

「高齢の重症患者を早くよくして早く自宅へ帰す」ために
高齢患者の特徴は認知症と廃用、低栄養で、業務量が極めて多く手間のかかる患者といえる。認知症は多くのスタッフ、とくに看護師が対応に追われ、廃用、低栄養は骨格筋が乏しいために寝たきりになりやすく、栄養状態の悪化を示している。さらに、高齢患者は三次救急のほとんどを占めており重症化しやすく、高度医療にさらされることから侵襲が強くなり、急速に骨格筋が減少し廃用が進むとともに、栄養状態が悪化して免疫能が低下、感染を繰り返して衰弱し、入院期間が延び予後も厳しい。
こうしたことを防ぐには「医師中心の質の高いチーム医療」で根本治療や臓器代償療法などを迅速、確実に行い、侵襲を早く減らし、早期のリハビリや栄養サポートといった「多職種による効率的なチーム医療」を行い、骨格筋を維持し廃用を防ぎ、栄養状態を改善して速やかに退院させなければならない。このように高齢者の急性期医療においては、リハビリや栄養サポート、薬学的サポート、社会福祉学的サポートといった業務を積極的に行うとともに、入院直後から必要な患者すべてに必要なすべてのサービスを「質の高いチーム医療」と「効率的なチーム医療」を適切に組み合わせて提供しなければ、患者を早く治し早く自宅へ帰すというアウトカムは出せないといえる。
これまで高齢の重症患者に適切に対応せず、多職種による効率的なチーム医療の必要性が理解されていない大学病院や国公立病院などでは、軽症の患者を数多く受け入れたり、高齢の重症患者を追い出さざるを得ず、重症度、医療・看護必要度や在宅復帰率の面で厳しい状況に置かれるのではないかと推測される。

「選択と集中」そして「分業と協業」
急性期病院には人の生命を支えるための膨大な業務がある。業務量はスタッフ数×能力×時間であり、能力は誤差範囲で時間は労働基準法で限定されることから、業務量が膨大になれば必然的にスタッフを増やさざるを得なくなる。しかし、診療報酬が低いためスタッフ数を増やせば人件費の増大に対応できないという問題が生じてしまう。
医療資源は有限であるが、「選択と集中」で機能を絞り込むことで医療の質を上げ、労働生産性を高めることができる。機能を絞り込めば絞り込むほど足りない機能が出てくるため、「分業と協業」が必要になる。病院の機能を絞り込めば「地域医療連携」、病棟の機能を絞り込めば「病棟連携」、スタッフの機能を絞り込めば「チーム医療」や「診療支援」が必要となる。たとえば「医師は医師しかできないことをする」というように、医師の業務を絞り込み、専門性を上げることで医療の質が向上し患者数が増え、労働生産性を高め単価が上がり、ひいては売り上げが上がり増大する人件費の原資となる。
現実に近森病院ではこの10年間に100床あたり100名以上のスタッフを増員したが、「地域医療連携」、「病棟連携」、「チーム医療」を徹底することで病床の稼働率は80%から100%に上がり入院単価も2倍となり、人件費の絶対額は増大しても人件費率は抑えることができている。


アウトカムの出るチーム医療
医師、看護師は医学的、看護学的に患者を診ているが、薬剤師による薬学、管理栄養士による栄養学、リハスタッフによるリハ学、臨床工学技士(以下、ME)による臨床工学、メディカルソーシャルワーカーによる社会福祉学の専門家ではなく、さらに医師はなかなか集まらず、看護師数は看護基準で上限があることから、医師、看護師のみで高齢者の急性期医療を行うことは不可能になっている。
そのため膨大な業務を処理するためには多職種による「多数精鋭」の効率的なチーム医療が必要になってくる。「多数精鋭」の「多数」は多くの医療専門職を病棟に配属し常駐することであり、「精鋭」はそれぞれの医療専門職の視点で患者を診て判断し、介入する自立、自動することを示している。多くの視点で全人的に患者を診れることから医療の質が上がり、自立、自動することで業務処理能力が飛躍的に向上して労働生産性が高まり、患者数が増え単価が上がり、売り上げが上がるとともに、多くの専門性の高いスタッフとのチーム医療により患者は早く良くなり早く自宅に帰るようになる。

病棟連携の大切さ
チーム医療とともに増加する人件費の原資として大きく貢献するものは高規格病床による高い入院料である。高齢の重症患者を早く治すためには7:1看護では絶対的に看護師数は足りない。ICUや救命救急病棟、SCU、HCUといった高規格の病棟に数多くの看護師だけでなく多職種の多数精鋭の医療専門職を投入し、医師、看護師の業務を代替し、多くの専門性の高いマンパワーによるチーム医療で病状を安定させ、7:1看護でも診れる状態にして一般病棟に転棟する「病棟連携」が必要になる。医療専門職は権限を委譲されそれぞれの専門分野の業務を行うことで、医師、看護師はコア業務に専念できるようになり、労働環境が改善しバーンアウトすることなく、やりがいをもっていきいきと働けるようになる。
ただ、今回の特定集中治療室管理料やハイケアユニット入院医療管理料のモニタリングおよび処置等のA項目は「高齢、重症患者」ではなく「重症患者」のみの視点からみた項目となっている。若くて骨格筋のある患者が主体であった20年から30年前の管だらけで絶対安静、絶食で末梢輸液の患者がベッタリ寝ている重症病棟の姿が浮かび上がってくる。
高齢の重症患者は侵襲により骨格筋が急速に消耗することから、根本治療を迅速、確実に行い、リハビリや栄養サポートなどの必要なサービスすべてを提供しないとよくならない。そのためにも早期の管理栄養士による24時間のポンプによる経腸栄養や看護師が片手間にやるリハビリもどきではなく、リハスタッフによる積極的、専門的なリハビリの提供、敗血症に対するMEによるエンドトキシンの吸着などの入室基準の病態に対応する根本治療に必要な処置など、あるべき高齢、重症患者の治療の形へ誘導するようなA項目を次回には提示していただければと願っている。
CHDFなどはその典型で24時間ベッドに括りつけ水分を取るだけであるが、MEの少ない大病院で行われているだけで、MEによる4時間の透析では水分ばかりでなく溶質も除去でき、患者はあとの20時間をリハビリや栄養サポートを受け、回復がはるかに早いというメリットがある。

地域医療連携の大転換
急性期病院においても在宅復帰率が求められるようになり、自宅や回復期リハ病棟、地域包括ケア病棟、在宅復帰型の療養病棟や老健、老人ホームやサ高住などの各種施設への復帰率が75%以上求められている。さらには回復期リハ病棟入院料や地域包括ケア病棟入院基本料のA項目としてモニタリングや処置等が求められるようになり、これらの病棟もA項目があるからといって断っていた患者をすすんで取らざるを得なくなり、早期の転院が促進されるようになる。
それでも回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟は、回復期の患者を従来通り受け入れ在宅へ帰すことは可能であるが、療養病床や老健施設が問題となる。従来、療養病床に転院する患者は神経筋疾患や臓器不全などの悪液質、侵襲などにより骨格筋が枯渇した寝たきりの低栄養患者であるが、このような患者を療養病床のようなマンパワーの少ない病棟で歩けるようにして在宅へ帰すことはまず不可能である。ところが急性期病院の在宅復帰率に算定できる在宅復帰型の療養病床は、平均在院日数が304日で退院患者の半数が在宅へ帰らなければならない。これは100床の療養病床で1カ月あたり10人退院しそのうち5人が在宅に帰ることを意味している。
骨格筋の枯渇した寝たきり患者を受け入れ、療養病床のバックに多くの施設を整備したとしてもベッドには限りがあり、いつまでも退院させ続けることはできない。さらには在宅復帰型を取らないと急性期病院からの患者の紹介はなく、次回か次々回の診療報酬改定で診療報酬が極端に下げられることも予測され、このような寝たきり患者の受け入れは極めて困難になると考えられる。
このような状況は寝たきりの透析患者にすでに起こっており、透析医学会が透析の終末期医療のガイドラインを提示したように、寝たきり透析患者が入院医療を継続することは現実的に難しくなっており、透析を導入せず保存的に加療したり、透析の中止や中断が増加している。
骨格筋のない寝たきり患者が転院できず残留し急性期病床を占拠すれば、本来の役割である救急や急性期の患者を受け入れることができず、半ば強制的に高い自己負担で有料老人ホームや在宅へ帰し、外付けの訪問診療や訪問看護、リハビリ、介護で対応するしかないが、ほとんどの患者はそっと見守るしかなくなると推察される。今回の診療報酬改定でこのような行動変容が起これば、療養病床などの慢性期病床も機能し回転する回復期病床に変わり、医療から介護への流れもはるかに良くなると思われる。

おわりに
今回の診療報酬改定は、急性期から慢性期、在宅への流れがスムーズに流れるよう、急性期と慢性期の間に大きな楔が打ち込まれ、医療に携わる者に大きな意識変革とそれに伴う行動変容を強いるドラスティックな改革であるといえる。重症度、医療・看護必要度などにおいては、古さが目立つが、急性期は早く患者を治し急性期らしく、回復期は早く患者を受け入れ回復期らしく早く患者を在宅に流し、介護施設も介護施設にふさわしい患者を入所させ、在宅にスムーズに移行させるという大きな枠組みと流れる方向性は間違っていないと考えている。
次回の診療報酬改定は次々回の同時改定で医療、介護の流れがよりスムーズに流れるようこの2年間の各病院、施設の対応をみて、抜け道を捜す者にとってはさらに厳しいものになるかもしれない。
目先の利益や対応に目がくらむことなく、地域医療の枠はすでに決まっていることから、自院のジグソーパズルのピースをどこに当てはめるかを早く決断し、実践し続けることがいま求められている。決して真ん中に置くだけが能ではない。