解説(2)

■解説(2)
【CAPDの出口部ケア】近森病院 透析外来  CAPD 室主任 後藤玲子 医師 近森正昭

キーワード

出口部ケア、生食洗浄、接触顕微鏡

始めに

カテーテル出口部はトンネル部分と周囲の皮膚、その境界部から成り立っています。

トンネル部は肉芽が表面を覆い、出口部周囲は皮膚が覆うことで守られており、肉芽は不定期に、皮膚は 28 日周期で常に新生して健常性を保ちます 。

出口部への侵襲と上皮再生を 50 倍接触顕微鏡で観察しました。

対象と方法

01 年から 03 年までの CAPD 患者は 60 名で、 02 年にポピドンヨードを中止、生理食塩水の洗浄に変更して肉眼所見と 50 倍に拡大できるスカラ社の接触顕微鏡 USB マイクロスコープ M2 の画像で出口部を観察しました。

結果

97 年からカテーテル全周をシルキーテックで被う固定に変更してカテーテルの移動が減り出口部感染は減少しましたが、 01 年には4例の発赤した出口部が消毒剤による皮膚炎で硬結をきたし感染をともないました。

生理食塩水の洗浄に変更した 02 年後は出口部が発赤しても硬結を認めなくなっています。

不良肉芽は3年間を通じて6名発生しましたが、生食洗浄に変更した後半は2例で肉芽を生じても上皮に覆われ繊維化して退縮しています。

症例1
病例1
病例1
病例1
病例1
病例1

84 歳、男性、閉塞性肺疾患がありペースメーカーも5年前に挿入され、心筋梗塞から心不全が増悪し3年前に透析へ導入、心不全の進行で除水ができなくなり CAPD へ変更した患者です。

生食洗浄とワセリン塗布で健常な出口部が形成されていましたが、塩分の多い食事で浮腫が生じ CAPD 導入後 42 日目にカテーテルでこすれた部分が皮膚潰瘍となりました。

42 日目、皮膚潰瘍を生じています。

2日後、潰瘍面には壊死組織を認めます。

培養は黄色ブドウ球菌、壊死組織への付着です。

8日目、上皮が再生しています。

3週間目、痂皮を認めます。

1カ月後、皮膚の肌理(きめ)は保たれおり、トンネル部の肉芽は瘢痕化しています。

潰瘍面の創傷治癒で出口部感染ではないと判断しました。

抗生剤は使用せず生食洗浄とワセリン塗布を続け上皮が再生されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

症例2
病例2
病例2

70 歳、女性、糖尿病、消毒剤を使う出口部ケアから洗浄へ変更した最初の症例を示します。

CAPD 導入 13 日目の出口部です。

ポピドンヨードによる接触性皮膚炎で肌の肌理が消失し、発赤と浮腫を認めます。

導入 16 日目、生食洗浄に変更した3日後ですが肌の肌理が回復しています。

 

 

 

 

 

症例3
病例3
病例3

84 歳、男性、腎硬化症、慢性心不全、出口部の潰瘍にイソジンを使用し出口部は2年間壊死組織のままでした。

壊死組織からは緑膿菌と黄色ブドウ球菌が培養されています。

イソジン消毒で上皮が再生しません。

生理食塩水洗浄に変更し、上皮が再生しています。

洗浄に変更すると表面が上皮化し不良肉芽は繊維化し退縮してきました。

 

 

 

 

考察

カテーテル出口部はトンネル部分と周囲皮膚の異なる状態から成り立っており、その境界部分は不安定です。

トンネル部はカテーテルと密着して湿った環境が保たれ、出口部から感染が広がってこない限り安定した状態が保たれています。

周囲の皮膚は表面に薄い角質層があり鎧のように硬い殻でおおわれているため洗っていれば安定した状態が保たれます。

境界部分は傷つきやすく上皮が欠損すると周囲まで障害を及ぼす引き金になる部分です。

トンネル部分の壊死組織を除去する蛋白分解酵素で境界部分がかぶれたり、カテーテルがこすれることで常に傷つけられています。

カテーテルがこすれると境界部分の角質層がはがされ上皮が傷害されますが、周囲の皮膚と毛嚢内の上皮が遊走してきて上皮は生え替わります。

イソジンやヒビテン、アルコールなどの消毒剤は細胞毒なので生まれたばかりの弱い上皮を殺してしまいます。

出口部の消毒をしていると境界部分が傷ついても上皮が再生されず、裸のまま弱い深部をさらけ出しているので感染を引きおこしたり不良肉芽が生じます。

成熟した強い角質に出口部が包まれていると消毒しても角質層に守られて発赤や排膿はなく消毒剤による不利益は今まで気づかれていませんでした。

出口部の細菌は皮膚の常在菌で皮脂を分解して皮膚を弱酸性に保ちバリア機能の一部として人間と共生しており害を与えていません。

毛嚢などの皮膚深部にも存在し強力な消毒で表面の細菌を殺しても2時間で元の数に戻ってしまいます。

皮膚の構造
皮膚の構造
皮膚の構造
皮膚の構造
皮膚の構造

皮膚は三次元構造で下層から更新され、一番上が角質層です。

角質層は非常に薄いのですが皮膚のバリア機能をにない、表層では細菌と共生して弱酸性を保っています。

角質は老化や低栄養で保湿成分が減少し、角質層の水分が減るとバリア機能が低下します。

表皮細胞が角質まで上昇する間に細胞核を失いケラチン線維を固めるフィラグリンが分解されます。

フィラグリンは分解されてペプチドやアミノ酸となり天然保湿成分 NMF として水分を保持します。

脂肪酸や糖脂質セラミドで構成された細胞間脂質は水を通さない膜として水分の蒸発を防ぎます。

紫外線はフリーラジカルを増やして老化を進め、乾皮症ではセラミドは減っていなくても NMR が少なくなり保湿機能が低下します。

重症の乾皮症ほど NMR の量を示す角質層の遊離アミノ酸含有量が少なくなります。

低栄養の透析患者でも同様の異常が生じていると思われ、乾皮症に似た皮膚症状を示します。

皮膚表面は溝にしきられた三角形の丘が規則正しく並んだ構造になっていて肌理といわれており、皮溝の交差する部分に毛嚢と皮脂腺があり皮丘に汗腺があります。

正常な皮膚であれば皮丘はふっくら盛り上がっていますが、透析患者では乾燥して扁平になり皮丘がテカテカして見えます。

三角形の皮丘がきれいに並んでいます。

ドライスキンの皮膚は皮丘が扁平となり、肌理が大小不揃いで一方向へ皮溝が流れています。

健常な皮膚にはバリア機能と自浄機能があり正常な機能の維持にはスキンケアが必要です。

健常な皮膚では汚れを落とし保湿するだけで充分ですが、 透析患者ではドライスキンが多く対症療法としてステロイド剤や保湿クリームが使用されています。

症例2の方は始めてだったので洗浄後にスキンケアをしていませんでした。

洗浄だけしていると角化が激しくなるためワセリンやヒルドイドソフトの塗布が必要になります。

皮膚表面の角質層は死んだ組織ですから血液が流れて水分を調整したりできないため保湿成分の物理的条件で適正な水分量が決まります。

老化や低栄養で保湿成分が減ってドライスキンになっても、浮腫や炎症でむくみが生じても角質は剥がれたりもろくなります。

表皮が欠損すると周囲の皮膚と毛嚢に残った上皮が遊走して表皮が再生し、感染や皮膚炎が毛嚢まで及ぶと肌理が失われます。

正常な生理機能に必要な皮膚深部の立体構造を示す肌理を診断基準にすることができます。

出口部周囲は浮腫、ポピドンヨードの接触性皮膚炎、テープを剥がす際の機械的損傷および被覆材による皮膚侵軟でバリア機能が低下します。

表面の角質層は非常に強くカテーテルがこすれたくらいでは傷つかないのですが、角質層は過剰な水分を含むともろくなるため浮腫や炎症で傷つきやすくなります。

ポピドンヨードや分泌物に含まれる蛋白分解酵素は皮膚炎をおこし、被覆材は通気を妨げて表層の浮腫をおこします。

テープを剥がすと接触面の角質層が剥離し弱い部分が露出するので皮膚炎をおこします。

バリア機能が低下した出口部はカテーテル移動によって機械的に損傷されやすくなり、カテーテルの固定が不完全だとこすれて表皮が欠損します。

表皮の欠損部は周囲から上皮が遊走して修復されますが、弱い新生上皮は消毒剤によって破壊されます。

上皮が再生しなければ不良肉芽が生じたり、壊死組織に細菌が増殖します。

不良肉芽は出血しやすく、 膿性の分泌物は出口部の炎症を生じさせます。

不良肉芽が上皮に覆われると炎症性刺激が減るために繊維化して硬く健常な肉芽に変わっていきます

終わりに

表皮下層に感染が広がると出口部感染になり、深部まで障害が広がると肌理が失われます。

ポピドンヨードを使用せず、洗浄によって汚れや刺激物が取り除かれると上皮は再生しやすく肌理のある健常な皮膚になります。

良い状態に出口部を保つためには皮膚を洗浄して健康な状態にすることが大事で、機械的な損傷を与えるカテーテルを固定して傷つかなくすることが最も重要です。

参考文献

1)宮地良樹 臨床医のためのスキンケア入門  148-155  医学書院  2003

2)夏井睦 これからの創傷治療  78-85  医学書院  2003

3)宇津木龍一 ミクロのスキンケア 日経 BP 企画  2003

Showing record 2 of 6 | 閉じる |